温室効果の仕組みと簡易モデル

Dr. SSS 2020/03/13 - 13:14:42 気候物理
はじめに

『有効放射温度』において,温室効果を考慮しない場合の地表温度を求めた。ここでは,まず最初の節で温室効果のメカニズムを説明した後,簡易的なモデルを用いて,温室効果の働きを確認する。


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内容

温室効果とは

温室効果のメカニズムは非常に単純な物理によるものだ。 地球は太陽から放射(電磁波)という形でエネルギーを受け取る。 放射は様々な波長に分解でき,どのくらいの波長の電磁波がどれくらい含まれているかを示す分布を,スペクトル分布という。 これを図示したのが図1の上の図の赤い線である。 これを見ると,太陽からの放射のうち,可視光($0.4\ {\rm \mu m} \sim 0.7\ {\rm \mu m} $)が主な成分になっていることがわかる。

地球はこうして放射の形で受け取ったエネルギーを,一部は反射してそのまま宇宙に返し,残りは地表や大気で吸収する。 吸収されたエネルギーは再び放射として宇宙に向けて放たれるのだが,地表や大気からの放射は太陽放射のスペクトル分布とは異なり,図1の上の青い線で表されるように,赤外線($0.7\ {\rm \mu m}$より長い波長)が主な成分となる。 そのため,太陽から受け取る放射と,地球が発する放射は波長スケールによって分離することができ,前者を短波放射(short-wave radiation ),後者を長波放射(long-wave radiation)あるいは赤外放射(infra-red radiation)という。 この分離が1つのポイントである。

図1:(上) 左の山が大気上部における下向きの太陽放射,右の山が地表からの上向きの放射であり,5525Kおよび210Kから310Kでの黒体放射の曲線と共にプロットされている。(中) 大気による放射の吸収および散乱のスペクトル。 (下) 大気の構成成分ごとの吸収及び散乱割合。commons.wikimedia.orgより転載

地球の大気は,主成分である窒素や酸素に加え,水蒸気(H₂O),二酸化炭素(CO₂),メタン(CH₄)や亜酸化窒素(N₂O)など様々な気体分子から成る。 これらの分子は,それぞれ特定の範囲の電磁波をよく吸収する性質を持っている。 図1の中および下で示されている通り,大気の吸収スペクトルは,太陽からの放射に対しては開けているが(大気の窓),地球からの放射スペクトルとは大部分が重なっていることがわかる。 それゆえ,太陽放射の多くは吸収されず地表に達するのに対し,地表からの放射は大部分が大気によって一旦吸収されるため,そのまま宇宙に逃げていくことができない。

大気に吸収されたエネルギーは,改めて長波放射として放出される。 一部は宇宙に向けて放出されるが,残りは改めて地表に向かって放出される。 このため,地表の温度は有効放射温度より高くなる。 これが,温室効果のメカニズムであり,温室効果に関与する気体を,温室効果ガスという。 実際の大気におけるプロセスの詳細は複雑であっても,放射スペクトルや,気体の吸収スペクトルなどは非常に基本的な物理によって決まるものであるため,温室効果の存在自体は否定のしようがないものである(本投稿および『有効放射温度』の最後の節も参照)。以下,簡易的なモデルを用いて,温室効果の働きを確認する。




温室効果の簡易モデル

透過率

短波放射および長波放射それぞれについての大気の透過率(transmittance)$\mathcal{T}_\text{sw}$および$\mathcal{T}_\text{lw}$を導入する。つまり,平均入射エネルギー$F_0$のうち,$(1-\mathcal{T}_\text{sw})F_0$は大気に吸収され,残りの$\mathcal{T}_\text{sw}F_0$だけが地表に届く。 そして,地表からの放射$F_\text{g}$のうち,$(1-\mathcal{T}_\text{lw})F_\text{g}$は大気に吸収され,残りの$\mathcal{T}_\text{lw}F_\text{g}$が大気を透過して宇宙に逃げていく。


エネルギーバランス

流体運動を介した熱輸送などは無視し,エネルギー交換は放射プロセスのみを介してのみ行われ,関連する照射はどこでも釣り合っているとする。 すると,大気の上端では,太陽からの下向きの放射$F_0$と,上向きの大気による反射$F_\text{a}$および地表での反射$\mathcal{T}_\text{lw}F_\text{g}$が釣り合い

\begin{align} F_0=F_\text{a}+\mathcal{T}_\text{lw}F_\text{g} \end{align}

が,大気と地表の間では,地表からの上向きの放射$F_\text{g}$と,下向きの大気からの放射$F_\text{a}$と大気をすり抜けた太陽放射$\mathcal{T}_\text{sw}F_0$が釣り合い

\begin{align} F_\text{g}=F_\text{a}+\mathcal{T}_\text{sw}F_0 \end{align}

が成り立つ(図2)。

図2:放射の釣り合い

地表の放射も黒体放射であると仮定し,これらの式から$F_\text{a}$を消去することで

\begin{align} \label{eq:Fg} F_\text{g}=\sigma T_\text{g}^4=F_0\frac{1+\mathcal{T}_\text{sw}}{1+\mathcal{T}_\text{lw}} \end{align}

を得る。

地球大気の透過率に大体の値$\mathcal{T}_\text{sw}=0.9$および$\mathcal{T}_\text{lw}=0.2$を入れると,式(\ref{eq:Fg})より$T_\text{g} \simeq 286$K($13^\circ$C)が得られる。

このモデルで得られた地球表面の平均温度は,実際の値$288$K($15^\circ$C)に近い。しかし,このモデルもまだ簡略的過ぎるものであり,この一致は偶然によるところが大きい。それでも,このモデルは温室効果の基本的なメカニズムを表している。


主な温室効果ガス濃度の推移

改めて,地球大気中での主な温室効果ガスとして水蒸気(H₂O)や二酸化炭素(CO₂),そしてメタン(CH₄)や亜酸化窒素(N₂O)などが挙げられる。

下の図3は過去2000年の地球大気中の二酸化炭素,メタンおよび亜酸化窒素の濃度を表しており,これらの温室効果ガスが産業革命(1750年ごろ)以降から急激に増加していることが見て取れる。この増加は主に人間活動によるもので,温室効果による地球温暖化の原因となっている。

図3:Forster, P., et al. (2007)の2.1のFigure 1。1750年ごろからの増加は主に人為的な寄与によるものと考えられる。濃度単位は,百万分率(ppm)または十億分率(ppb)で示されている。

近年,特に影響が危惧されているのがメタンである。これは,大気中に放出されてから最初の20年間で二酸化炭素の84倍の熱を取り込むとも見積もられている(Myhre et al. 2013)

メタンの主な排出源は畜産であるが,畜産は放牧や飼料栽培のために,温室効果ガスを吸収してくれる森林を大規模に切り開くことや,輸送や製品の加工などを通して大量の二酸化炭素も排出する。Harwatt et al.(2019)では

If the livestock sector were to continue with business as usual, this sector alone would account for 49% of the emissions budget for 1.5°C by 2030, requiring other sectors to reduce emissions beyond a realistic or planned level
(もし畜産がこのままの通り継続されるならば,畜産だけで2030年までに平均気温上昇を1.5°Cに抑えるための排出バジェットの49%に相当する排出量を担うことになり,他の部門に現実的な,あるいは予定されているレベルを超える要求することになる)

と述べられている。



参考文献

  • Forster, P., et al. (2007). Changes in atmospheric constituents and in radiative forcing. Chapter 2. In Climate Change 2007. The Physical Science Basis.
  • Goody, R. M., & Yung, Y. L. (1989). Atmospheric radiation: theoretical basis. Oxford university press.
  • Harwatt, H., et al. (2019). Scientists call for renewed Paris pledges to transform agriculture. The Lancet Planetary Health. 4(1).
  • Myhre, G., et al. (2013). Anthropogenic and natural radiative forcing. Climate change 2013: The physical science basis. Contribution of Working Group I to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change, 659–740..

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