
【気候物理】Budyko–Sellersモデルとアイス・アルベド・フィードバックI
1979年から2019年までの北極の氷量の年間最小値の推移。<a href="https://svs.gsfc.nasa.gov/4786" target="_blank">NASA</a>より。
Introduction
ここでは,緯度依存性を持つ1次元のエネルギーバランスモデル(EBM)を用いて,アイス・アルベド・フィードバックについて考察する。理論的な詳細に立ち入る気はないという人のためにも,アイス・アルベド・フィードバックとその影響について初めの節(およびパートIIの最後)で簡単な解説をしているため目を通してもらいたい。
分量が多くなるため,この投稿ではモデルの紹介のみを行い,具体的な値を用いた計算例は『パートII』で紹介する。

アイス・アルベド・フィードバックとは
アイス・アルベド・フィードバックとは,氷や雪の面積が増えたり減ったりすること伴って,アルベド(太陽からの入射光エネルギーを反射する割合)が変化することによって生じる正のフィードバックプロセスである。フィードバックプロセスとは,系(この場合は惑星の気候)の状態を決めるあるパラメータに変化が生じたとき,その変化が変化を起こしたパラメータ自身に影響を与えるプロセスのことを言う。そして,ここでいう正のフィードバックとは,その影響がさらにパラメータの変化を促進する方向に働くものを指している。
アイス・アルベド・フィードバックの場合には,考慮の対象となるパラメータは気温である。気温が上昇し,太陽からの入射エネルギーを効果的に反射してくれる氷の融解が進むと,海や地表がむき出しになり,入射エネルギーの吸収効率が上昇する。その結果,ますます気温が上昇して氷の融解を促し,さらに気温が上昇し…というループにはまり込んでしまう(図1)。

図1:フィードバックループのイメージ
これが温暖化を加速させる方向へのアイス・アルベド・フィードバックの働きである。 現在,人間の身勝手な生き方の影響によって温暖化が進行しており,トップに載せたアニメーションの通り,北極の氷も年々減少している。南極やグリーンランドなどの氷床が溶けることによる影響として,海面上昇や病原菌の解放などが危惧されているが,氷の減少は,こうしたフィードバックループにより,それ自体が温暖化をますます加速させることにもつながるため,非常に深刻な問題なのである。以下では,初めに述べたような1次元の簡易モデルによるこのプロセスの扱いについて解説する(数式の無い解説はパートIIの最後に続く)。
Budyko–Sellersモデル
系に緯度$\theta$への依存性を持たせ,南北方向への輸送項$\Delta F$を加えた
は,Budyko-Sellersモデルと呼ばれる。 ここで,$x=\sin\theta$である。 以下,時間依存性は落とし,平衡状態について考察する。
入射フラックスも緯度依存性を持ち,$F_0$を太陽定数として
で与えられる。 $s(x)$は日射分布の年平均で
が十分よい近似となる(図2)。 ここで
は,2次のLegendre多項式である。 上向きフラックスは,0次元モデルでも用いられるのと同様に,温度への線形な依存性を仮定した
の形で与えられる。 係数$A$および$B$は観測値に基づいて決定される。

図2:(\ref{eq:sx})で与えられる日射分布の年平均
輸送項の形
Budykoモデルでは,輸送項は,全球平均温度$\overline{T}$への緩和を表す
の形が仮定される。 ここで,全球平均は
で与えられる。 他方,Sellersのモデルでは拡散項
が用いられる。
Sellersモデルの輸送項(\ref{eq:DF_Sellers})とBudykoモデルの輸送項(\ref{eq:DF_Budyko})は,以下のような関係にある。 Sellersモデルの拡散項は,拡散係数$D$を定数とすれば,Legendreの微分方程式
の左辺と同一の形になる。 よって,温度をLegendre多項式を使って
と展開する。 このとき,赤道をまたいで南北に対称となる解を得るために,$n=$偶数次の係数$T_n$のみがゼロでないとする。 エネルギーバランスの式
に$P_m(x)$をかけ,Legendre多項式の直交条件
を利用して積分すると
を得る。 ここで
とした。 $n=0$では
となり,$T_0$は全球平均温度$\overline{T}$に対応する。
温度の展開(\ref{eq:TPn})を$n=2$までで止めると
であるから
と並び替え,(\ref{eq:Leg})を使うと
となることがわかる。 すなわち,温度のLegendre多項式を用いた展開を2次で止め,$D=6\gamma$とすれば,Sellersモデルの輸送項は,Budykoモデルの輸送項と一致する。
続いて『Budyko–Sellersモデルとアイス・アルベド・フィードバックII』において,ここで紹介した1次元のEBMを用いた数値計算の結果を紹介する。
