ここでは,『Budyko–Sellersモデルとアイス・アルベド・フィードバックI』で紹介した1次元エネルギーバランスモデルを用いた,アイスアルベドフィードバックを含む数値計算例を紹介する。
計算には,Budykoモデル
を用いる。 太陽定数は$F_0=1360$ Wm$^{-2}$,すなわち$Q=F_0/4=340$ Wm$^{-2}$であり,その他$A=210$ Wm$^{-2}$,$B=1.95$ Wm$^{-2}{}^\circ$C$^{-1}$,$\gamma=3.6$ Wm$^{-2}{}^\circ$C$^{-1}$とする。 また,年間通して氷が溶けずに留まる温度は約$-10^\circ$Cであるため,ここでは,そのクリティカルな温度$T_i\equiv T(x_i)=-10^\circ$Cを境に
とアルベドが不連続に変化するとする。 ここで,$x_i$は氷線の緯度(の正弦)である。
パートIで得られた
および
を用いて,太陽放射に対する氷線の緯度を図1にプロットした。 横軸は太陽照度$Q$を$Q_0=340$を用いて規格化した$Q/Q_0$。 縦軸は北半球における氷線の位置で,北極($\theta=90$)から始まり,赤道($\theta=0$)までのどの位置まで氷が広がっているかを示している。 $0 < \theta < 90$の曲線は(\ref{eq:Q})から得られる解で,$\theta=0$および$\theta=90$の線は,(\ref{eq:T})を用い,それぞれ$T < T_i$および$T > T_i$から始めて,$T$が$T_i$をまたぐまで徐々に$Q$の値を変化させて行くことで求めたものである。
図1:規格化された照射$Q/Q_0$に対する氷線の位置。点線は不安定解を表している。
$Q/Q_0=1$では,氷線は現在の値に近い$72^\circ$Nとなっている。 そこから,徐々に$Q$の値を小さくしていくと,曲線の傾きが大きくなっていき,$43^\circ$N,つまり太陽照射が96%あたりまで減少したところで曲線の傾きが変わることがわかる。 傾きは照度に対する気候の感度を表しており,傾きの変化はフィードバック効果を表している。 その点より下の点線でプロットしてある部分は,平衡解ではあるが不安定解であり,物理的には実現しない解に対応する。 そのため,それ以上$Q$の値を小さくすると,(地質学的スケールで見れば)一瞬の間に氷線は赤道まで下降し,全球凍結状態に至る。
反対に,$Q$を上昇させていった場合も,$Q$が101%強まで増加すると,氷は完全に消える。 この場合もアイス・アルベド・フィードバックにより,照度の増大に伴い氷線の減退が加速することがわかる。 図1のような結果は,太陽照度$Q$ではなく,温室効果ガスなどによる他の強制力に対しても同様に得られる。
上のシミュレーションで用いたモデルは,簡易的ではあるが,強制力に対する気候システムの応答と,アルベドの変化が果たす役割の性質をよく捉えている。 アルベドの変化に伴うフィードバックは,急速な温暖化にも寒冷化にも寄与しうるが,現在の地球で危惧されてるのは,もちろん人為的な影響による温暖化である。 人為的な影響がなくとも,地球が自然の影響で次に(一般的な用法で氷河期と呼ぶような)広範囲の凍結状態に至るのは,少なくとも5万年は先であると考えられているが(Berger and Loutre 2002),Ganopolskiら(2016)の研究は,温室効果ガス排出などの人為的な影響は,それをさらに5万年先送りにするに十分であることを示唆している。
現在,北極は他の地域の2倍の速さで温暖化しており,氷の減少が進行している。 さらに,永久凍土が融解を始めると,眠っている炭素が二酸化炭素や,それよりもさらに強力な温室効果ガスであるメタンとして大気中に放出され,温暖化がさらにブーストされる可能性もある。 我々にできること,そしてすべきことは,各個人が今すぐ身勝手な生き方を改め,持続可能な生活スタイルに切り替えていくことだ。 個人で出来る最も有効かつ容易な手段は,ビーガンになること,そして子供を作らないことである(Springmann et al. 2016, Wynes and Nicholas 2017, Ripple et al. 2020)。