はじめに
ここでは,熱容量および比熱という概念について説明する。
また,最後にエンタルピーという新たな状態量を導入し,その意義を説明する。
熱容量の定義
系が$\Delta Q$の熱を吸収した結果,温度が$\Delta T$上昇したとする。
このときの比(微分ではない!)
\begin{equation}
C_\text{ave} \equiv \frac{\Delta Q}{\Delta T}
\end{equation}
を,平均熱容量(average heat capacity)という。
そして,$\Delta T$を無限小とする極限で定義される
\begin{equation}
C \equiv \lim_{\Delta T \to 0} \frac{\Delta Q}{\Delta T}
\end{equation}
を熱容量(heat capacity)という。
SI単位では,J/K(ジュール/ケルビン)で測られる。
熱容量は示量的な量であるが,これを質量で割った量,すなわち単位質量当たりの熱容量は示強的な量となり,比熱(specific heat)と呼ばれる。
定積熱容量と定圧熱容量
状態変数として$(T,V)$を選ぶと,内部エネルギーの全微分は
\begin{equation}
dU
=\left( \frac{\pd U}{\pd T}\right)_V dT
+\left( \frac{\pd U}{\pd V}\right)_T dV
\end{equation}
である。
これを,準静的過程の熱力学第一法則
\begin{equation}
\label{eq:1stlaw_heat}
\delta Q
= dU + PdV
\end{equation}
に代入すると
\begin{equation}
\delta Q
=\left( \frac{\pd U}{\pd T}\right)_V dT
+\left( \frac{\pd U}{\pd V}\right)_T dV
+PdV
\end{equation}
となる。
これを$dT$で割ることで
\begin{equation}
\label{eq:HC}
\frac{\delta Q}{dT}
=\left( \frac{\pd U}{\pd T}\right)_V
+\left[ \left( \frac{\pd U}{\pd V}\right)_T + P\right]\frac{dV}{dT}
\end{equation}
が得られる。
(\ref{eq:HC})は,任意の過程について成り立つ式であるが,体積$V$が一定の場合を考えると,(\ref{eq:HC})の右辺のうち1項目のみが残り
\begin{equation}
\delta Q
=\left( \frac{\pd U}{\pd T}\right)_V dT
\end{equation}
となる。
このときの熱容量
\begin{equation}
\label{eq:heat_capacity_V}
C_V
\equiv \left(\frac{\delta Q}{d T}\right)_V
=\left( \frac{\pd U}{\pd T}\right)_V
\end{equation}
を,定積熱容量(heat capacity at constant volume)という。
他方,圧力$P$が一定の場合,(\ref{eq:HC})右辺の2項目からの寄与も加わる。
\begin{equation}
\left( \frac{dV}{dT}\right)_{P=\text{一定}}
=\left( \frac{\pd V}{\pd T}\right)_P
\end{equation}
に注意すると
\begin{equation}
\label{eq:heat_capacity_P}
C_P
\equiv
\left( \frac{\pd U}{\pd T}\right)_V
+\left[ \left( \frac{\pd U}{\pd V}\right)_T + P\right]\left( \frac{\pd V}{\pd T}\right)_P
\end{equation}
が得られる。
これを,定圧熱容量(heat capacity at constant pressure)という。
定積熱容量を用いて表せば
\begin{equation}
C_P
= C_V
+\left[ \left( \frac{\pd U}{\pd V}\right)_T + P\right]\left( \frac{\pd V}{\pd T}\right)_P
\end{equation}
である。
エンタルピー
化学は熱力学の重要な一応用分野である。
例えば,化学反応に伴い,系がどれだけのエネルギーを吸収あるいは放出するかということも,熱力学の知見が活かされる重要な関心対象の一つである。
体積が一定であれば
\begin{equation}
\label{eq:dQ=dU}
\delta Q = dU
\end{equation}
であるから,その過程で系と外界の間に流れた熱を測定することで,エネルギー変化を決定できる。
またその熱は,熱容量(\ref{eq:heat_capacity_V})に,温度の変化分をかけたもので与えられる。
しかし,化学実験において,化学反応は一般に圧力一定の下(大気にさらされた容器内)で実行される。
(\ref{eq:1stlaw_heat})は,圧力一定の系が熱としてエネルギーを受け取っても,体積変化が可能な場合,受け取ったエネルギーの一部が体積変化による仕事に利用させるため,内部エネルギーの増加分は受け取った熱よりも小さくなることを示している。
そこで,内部エネルギーに代わり,圧力一定に状況における(\ref{eq:dQ=dU})に相当する関係式を与えるような関数が欲しい。
その役割を果たすのが,エンタルピー(enthalpy)と呼ばれる次の関数
\begin{equation}
H=U+PV
\end{equation}
である。
定義からわかるよう,エンタルピーも状態関数である。
実際に$H$の微小変化は
\begin{equation}
\begin{split}
dH
=& dU + VdP + PdV \\
%
=& (\delta Q-PdV) + VdP + PdV \\
%
=&
\delta Q +VdP
\end{split}
\end{equation}
であるから,圧力一定であれば,エンタルピー変化は系が受け取る熱と等しい:
\begin{equation}
\label{eq:dH=dQ}
dH = \delta Q
\end{equation}
また,これより定圧熱容量は
\begin{equation}
\label{eq:CP_dH}
C_P = \left(\frac{\pd H}{\pd T}\right)_P
\end{equation}
と書ける。
ここでは化学反応を例とする文脈で導入したが,もちろん,エンタルピーが定義できるのは化学的な系に限らない。
そして,上で導いた関係(\ref{eq:dH=dQ})や(\ref{eq:CP_dH})は圧力一定の条件下における熱力学的な系一般に適用できる。