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    熱容量と比熱

    Dr. SSS 2020/07/18 - 13:23:38 4525 熱・統計力学
    はじめに

    ここでは,熱容量および比熱という概念について説明する。 また,最後にエンタルピーという新たな状態量を導入し,その意義を説明する。


    keywords: 熱容量, 熱力学, 比熱, エンタルピー

    熱容量の定義

    系が$\Delta Q$の熱を吸収した結果,温度が$\Delta T$上昇したとする。 このときの比(微分ではない!)

    \begin{equation} C_\text{ave} \equiv \frac{\Delta Q}{\Delta T} \end{equation}

    を,平均熱容量(average heat capacity)という。 そして,$\Delta T$を無限小とする極限で定義される

    \begin{equation} C \equiv \lim_{\Delta T \to 0} \frac{\Delta Q}{\Delta T} \end{equation}

    熱容量(heat capacity)という。 SI単位では,J/K(ジュール/ケルビン)で測られる。

    熱容量は示量的な量であるが,これを質量で割った量,すなわち単位質量当たりの熱容量は示強的な量となり,比熱(specific heat)と呼ばれる。

    定積熱容量と定圧熱容量

    状態変数として$(T,V)$を選ぶと,内部エネルギーの全微分は

    \begin{equation} dU =\left( \frac{\pd U}{\pd T}\right)_V dT +\left( \frac{\pd U}{\pd V}\right)_T dV \end{equation}

    である。 これを,準静的過程の熱力学第一法則

    \begin{equation} \label{eq:1stlaw_heat} \delta Q = dU + PdV \end{equation}

    に代入すると

    \begin{equation} \delta Q =\left( \frac{\pd U}{\pd T}\right)_V dT +\left( \frac{\pd U}{\pd V}\right)_T dV +PdV \end{equation}

    となる。 これを$dT$で割ることで

    \begin{equation} \label{eq:HC} \frac{\delta Q}{dT} =\left( \frac{\pd U}{\pd T}\right)_V +\left[ \left( \frac{\pd U}{\pd V}\right)_T + P\right]\frac{dV}{dT} \end{equation}

    が得られる。

    (\ref{eq:HC})は,任意の過程について成り立つ式であるが,体積$V$が一定の場合を考えると,(\ref{eq:HC})の右辺のうち1項目のみが残り

    \begin{equation} \delta Q =\left( \frac{\pd U}{\pd T}\right)_V dT \end{equation}

    となる。 このときの熱容量

    \begin{equation} \label{eq:heat_capacity_V} C_V \equiv \left(\frac{\delta Q}{d T}\right)_V =\left( \frac{\pd U}{\pd T}\right)_V \end{equation}

    を,定積熱容量(heat capacity at constant volume)という。

    他方,圧力$P$が一定の場合,(\ref{eq:HC})右辺の2項目からの寄与も加わる。

    \begin{equation} \left( \frac{dV}{dT}\right)_{P=\text{一定}} =\left( \frac{\pd V}{\pd T}\right)_P \end{equation}

    に注意すると

    \begin{equation} \label{eq:heat_capacity_P} C_P \equiv \left( \frac{\pd U}{\pd T}\right)_V +\left[ \left( \frac{\pd U}{\pd V}\right)_T + P\right]\left( \frac{\pd V}{\pd T}\right)_P \end{equation}

    が得られる。 これを,定圧熱容量(heat capacity at constant pressure)という。 定積熱容量を用いて表せば

    \begin{equation} C_P = C_V +\left[ \left( \frac{\pd U}{\pd V}\right)_T + P\right]\left( \frac{\pd V}{\pd T}\right)_P \end{equation}

    である。



    エンタルピー

    化学は熱力学の重要な一応用分野である。 例えば,化学反応に伴い,系がどれだけのエネルギーを吸収あるいは放出するかということも,熱力学の知見が活かされる重要な関心対象の一つである。

    体積が一定であれば

    \begin{equation} \label{eq:dQ=dU} \delta Q = dU \end{equation}

    であるから,その過程で系と外界の間に流れた熱を測定することで,エネルギー変化を決定できる。 またその熱は,熱容量(\ref{eq:heat_capacity_V})に,温度の変化分をかけたもので与えられる。

    しかし,化学実験において,化学反応は一般に圧力一定の下(大気にさらされた容器内)で実行される。 (\ref{eq:1stlaw_heat})は,圧力一定の系が熱としてエネルギーを受け取っても,体積変化が可能な場合,受け取ったエネルギーの一部が体積変化による仕事に利用させるため,内部エネルギーの増加分は受け取った熱よりも小さくなることを示している。 そこで,内部エネルギーに代わり,圧力一定に状況における(\ref{eq:dQ=dU})に相当する関係式を与えるような関数が欲しい。 その役割を果たすのが,エンタルピー(enthalpy)と呼ばれる次の関数

    \begin{equation} H=U+PV \end{equation}

    である。 定義からわかるよう,エンタルピーも状態関数である。

    実際に$H$の微小変化は

    \begin{equation} \begin{split} dH =& dU + VdP + PdV \\ % =& (\delta Q-PdV) + VdP + PdV \\ % =& \delta Q +VdP \end{split} \end{equation}

    であるから,圧力一定であれば,エンタルピー変化は系が受け取る熱と等しい:

    \begin{equation} \label{eq:dH=dQ} dH = \delta Q \end{equation}

    また,これより定圧熱容量は

    \begin{equation} \label{eq:CP_dH} C_P = \left(\frac{\pd H}{\pd T}\right)_P \end{equation}

    と書ける。

    ここでは化学反応を例とする文脈で導入したが,もちろん,エンタルピーが定義できるのは化学的な系に限らない。 そして,上で導いた関係(\ref{eq:dH=dQ})や(\ref{eq:CP_dH})は圧力一定の条件下における熱力学的な系一般に適用できる。


    参考文献