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    自由エネルギー

    Dr. SSS 2023/09/16 - 11:10:36 384 熱・統計力学
    はじめに

    $U(S,V,N)$および$S(U,V,N)$という関数は,熱力学系の情報をすべて含む特別なもので,熱力学ポテンシャルと呼ばれるのであった。 これら以外にも熱力学ポテンシャルは存在し,状況によっては,それら他の熱力学ポテンシャルの方が有用になる。 ここでは,重要な熱力学ポテンシャルである,自由エネルギーについて解説する。


    keywords: 化学ポテンシャル, 熱力学ポテンシャル, Gibbs自由エネルギー, Helmholtz自由エネルギー

    Helmholtz自由エネルギー

    内部エネルギーとエントロピー以外の重要な熱力学ポテンシャルの1つは

    \begin{equation} \label{eq:Helmholtz_free_energy} F\equiv U-TS \end{equation}

    で定義される。 これは,『熱力学第二法則』で導入したHelmholtz自由エネルギーであることが確かめられる。 実際,この量の全微分を取ると

    \begin{equation} \label{eq:dF} dF =dU-TdS-SdT \end{equation}

    であり,$T$一定かつ準静的な条件下での変化を考えると,$dU=TdS-\delta W$より

    \begin{equation} dF = dU-TdS = -\delta W \end{equation}

    となる。 一般には等式ではなく

    \begin{equation} \delta W \leq -dF \end{equation}

    であり,等号が成り立つのは等温準静的変化に限られるのであった。 また,この不等式は,等温変化により系が外に行える仕事には,自由エネルギーの減少分という上限があることを示しているのであった。 このことは,今回導入した自由エネルギーの定義(\ref{eq:Helmholtz_free_energy})を見るとより具体的に理解できる。 すなわち,内部エネルギー$U$のすべてを仕事として利用することはできず,等温過程において仕事に利用できるエネルギーは,内部エネルギーからエントロピーと温度の積$TS$を差し引いた分に限られる。

    (\ref{eq:dF})に$dU=TdS-PdV+\sum_i\mu_i dN_i$を入れると

    \begin{equation} dF = -SdT-PdV+\sum_i\mu_i dN_i \end{equation}

    を得る。 したがって

    \begin{align} \left(\frac{\pd F}{\pd T}\right)_{V,N_i} = -S \\ % \left(\frac{\pd F}{\pd V}\right)_{T,N_i} = -P \\ % \left(\frac{\pd F}{\pd N_i}\right)_{T,V,N_j} = \mu_i \end{align}

    であり,Helmholtz自由エネルギーは$(T,V,N_i)$を自然な変数とする熱力学ポテンシャルであることがわかる。



    Gibbs自由エネルギー

    多くの実験室での化学反応など,体積より圧力を変数とした関数の方が有用になることもある。 その場合,Gibbs自由エネルギー(Gibbs free energy)

    \begin{equation} G \equiv U-TS+PV = F+PV \end{equation}

    が重要な熱力学ポテンシャルとなる。

    $G$の全微分は

    \begin{equation} \label{eq:dG} dG=-SdT+VdP+\sum_i \mu_i dN_i \end{equation}

    であり,$(T,P.N_i)$を自然な変数としている。 特に,$i$成分の化学ポテンシャル$\mu_i$が,成分$i$の単位物質量あたりのGibbsの自由エネルギーであることを示す

    \begin{equation} \label{eq:mu_from_G} \mu_i = \left( \frac{\pd G}{\pd N_i}\right)_{T,P,N_j,(j\neq i)} \end{equation}

    が,化学ポテンシャルの1つの重要な定義となる。


    参考文献