状態数と状態密度
系のエネルギーが$E$である微視的な状態の数を表すものとして,状態密度$W(E)$を導入した。 これをある範囲で積分すれば,エネルギーが$E$以下である状態の数
が得られる。 $\Omega$は状態数(number of states)と呼ばれる。 これらは,定義より
の形でも関係づけられる。
Boltzmannエントロピー
系が取るエネルギーの値の確率分布を考える。 範囲$E$から$E+dE$に収まるエネルギーの値をとる状態の数は,(\ref{eq:number_and_density_of_states})より
で与えられる。 したがってこれに,エネルギー$E$を取る確率をかけることで,エネルギーの確率分布が
と得られる。 等重率の原理を仮定するならば,単に
であるから
という分布になる。
平衡状態において,エネルギーの確率分布$P(E)$は平均値$U$の周りで鋭いピークを持ち,そこからわずかに離れると急速に0に近づく。 よって,そのピークの幅を$\Delta E$とすれば
が十分な精度で成り立つ。 (\ref{eq:energy_probability_distribution})を用いると
とも表せる。 ここで
は,$E=U$周りで幅$\Delta E$内にある状態の数であり,統計的重率(statistical weight)などと呼ばれる。 そして,この対数
はエントロピーを表す。 $k_B$はBoltzmann定数で,次元の整合性のためにも必要である。
上の議論を一般化し,エネルギー$E$に限らず,巨視的な状態を特徴づける観測量$M$に対し,対応する重率$\Delta \Omega_M$を用いて,エントロピーが
で定義される(Bricmont 2022.)。 $\ln \Delta \Omega =\ln W+\ln \Delta M$であり,最後の項は本質的ではないから
とも表せる。 これが通常,Boltzmannエントロピー(Boltzmann entropy)と呼ばれるものである。 少なくとも希薄な気体においては,このBoltzmannエントロピーは熱力学的エントロピーと一致することが示せる。
(\ref{eq:Boltzmann_entropy_W})は,エントロピーとは,与えられた巨視的状態(それを特徴づける量の値で指定される)に対し,対応する微視的な状態の数の多さを表す量だということを示している。
References
――(1980). ランダウリフシッツ統計物理学 上・下. 小林秋男ほか訳. 岩波書店.