確率密度関数とアンサンブル

Dr. SSS
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確率密度関数とアンサンブル

確率密度分布

統計力学の主たる目的は,古典的であれ量子的であれ,力学的法則に従う微視的粒子の集合的振る舞いによって,系の熱力学的振る舞いを裏付けることである。 しかし,希薄な気体ですら$10^{20}$を超えるオーダーの数の粒子から構成されるため,このような系の微視的状態を決定することは事実上不可能である。 そこで,統計力学では微視的状態を厳密に決定する代わりに,ある時刻に系が$\Gamma$空間内の特定の領域内に存在する確率を扱う。

1番目の粒子が位置と運動量がそれぞれ$q_1$から$q_1+dq_1$と,$p_1$から$p_1+dp_1$の間にあり2番目の粒子が位置と運動量がそれぞれ$q_2$から$q_2+dq_2$と,$p_2$から$p_2+dp_2$の間にあり...という場合の確率を

\begin{equation} \label{eq:probability_element} \rho(q_1,q_2,...,q_N,p_1,p_2,...,p_N)dq_1...dq_Ndp_1...dp_N \end{equation}

で与える。 以下,相空間の体積要素として

\begin{equation} dqdp = dq_1...dq_Ndp_1...dp_N \end{equation}

という簡略化した表記を用いる。 $\rho$はそれに微小体積を書けることで,特定の状態が実現される確率を与えるものであるから,確率密度関数(probability density function)と呼ばれる。

アンサンブル

改めて,確率密度関数$\rho$は,特定の微視的状態に対応する変数の組$(q_1,p_1,...,q_N,p_N)$を与えて微小体積をかけることで,対応する領域に値を割り当てる関数である。 したがってこれは,相空間内にある連続体の密度を表すものと解釈することもできる(ただし,全領域での積分値は$1$であるように規格化される)。 この連続体を構成するのは,特定の巨視的条件の下で実現可能な系の集まりであり,統計力学ではこれをアンサンブル(ensemble)と呼ぶ。 またそれゆえ$\rho$は,確率分布関数(probability distribution function)とも呼ばれる。

References

  • Landau, L. D. and Lifshitz, E. M. (2013). Statistical Physics (Course of Theoretical Physics, Vol. 5). Pregamon press.
    ――(1980). ランダウリフシッツ統計物理学 上・下. 小林秋男ほか訳. 岩波書店.