Clausius–Clapeyronの式

Dr. SSS 2020/09/21 - 16:54:49 3484 熱・統計力学
はじめに

ここでは$T$-$p$面における蒸気圧の傾きと体積変化および蒸発熱の関係を与えるClausius–Clapeyronの式について説明する。


keywords: 相転移, 熱力学, Gibbsの自由エネルギー, 化学

内容

復習:Gibbsの自由エネルギーと化学ポテンシャル

まず,必要な知識を簡単におさらいしよう。 Helmholtzのエネルギー$F(T,V,N)$から,Legendre変換

\begin{align} G \equiv F-\frac{\pd F}{\pd V}V = F+pV \end{align}

によって得られる$G=G(T,p,N)$をGibbsの自由エネルギーという。 多成分,$k$成分としよう,からなる系であれば,$G$は各成分の物質量に依存し

\begin{align} G=G(T,p,N_1,...,N_k) \end{align}

となる。 すると $G$の全微分は

\begin{align} \label{eq:dG} dG=-SdT+Vdp+\sum_{i=1}^k \mu_i dN_i \end{align}

であり

\begin{align} \label {eq:mui} \mu_i = \left( \frac{\pd G}{\pd N_i}\right)_{T,p,N_j,(j\neq i)} \end{align}

を,成分$i$の化学ポテンシャルという。

Gibbsの自由エネルギーは示量変数であるから,系を$a$倍したとき

\begin{align} G(T,p,aN_1,...,aN_k)=aG(T,p,N_1,...,N_k) \end{align}

の関係が成り立つ。 これを$a$で微分すると

\begin{align} \sum_{i=1}^k N_i \frac{\pd G(T,p,aN_1,...,aN_k)}{\pd (aN_i)} = G(T,p,N_1,...,N_k) \end{align}

であるが,ここで$a=1$とし(\ref{eq:mui})を代入することで

\begin{align} \label{eq:GNmu} G(T,p,N_1,...,N_k)=\sum_{i=1}^k N_i \mu_i \end{align}

の関係を得る。 つまり,$i$成分の化学ポテンシャル$\mu_i$は,成分$i$の単位物質量あたりのGibbsの自由エネルギーとみなせる。

(\ref{eq:GNmu})の微分は

\begin{align} dG=\sum_{i=1}^k \mu_idN_i +\sum_{i=1}^k N_i d\mu_i \end{align}

であるが,これを(\ref{eq:dG})と比較すると

\begin{align} \label {eq:G-D} \sum_{i=1}^k N_i d\mu_i =-SdT+Vdp \end{align}

の関係が成り立つことがわかる。 これをGibbs–Duhemの式という。




Clausius–Clapeyronの式

液体と平衡にある蒸気の圧力を平衡蒸気圧(equilibrium vapor pressure)あるいは単に蒸気圧という。 このときの水蒸気圧と温度の関係を調べる。

2相$a$,$b$が平衡であるための条件は,互いの相における化学ポテンシャルが等しいこと,つまり

\begin{align} \mu_a = \mu_b \end{align}

である。 この関係は境界線に沿って不変であるはずだから,$p$と$T$を無限小変化させたことに伴う変化分も

\begin{align} \label{eq:dmu} d\mu_a =d\mu_b \end{align}

を満たす。図1は,典型的な液体と蒸気の相境界を表している。

図1:$T$-$p$図における典型的な液体と気体の相境界

1成分の場合のGibbs–Duhemの式(\ref{eq:G-D})は,単位物質量当たりの体積$v$とエントロピー$s$を用いると

\begin{align} d\mu = vdp-sdT \end{align}

であり,これを(\ref{eq:dmu})代入し,整理すると

\begin{align} (v_b-v_a)dp = (s_b-s_a)dT \end{align}

を得る。 相$a$を液相,$b$を気相としてこれを変形することで,蒸気圧と温度の関係を示す式

\begin{align} \frac{dp}{dT}=\frac{\Delta s}{\Delta v} \end{align}

が得られる。 ここで$\Delta s=s_b-s_a$および$\Delta v=v_b-v_a$である。 蒸発に伴うエントロピー変化は,(単位物質量当たりの)蒸発エンタルピー$h_\text{vap}$の変化を用いて$\Delta s=\Delta h_\text{vap}/T$と書けるため

\begin{align} \label {eq:C-Ceq} \frac{dp}{dT} =\frac{\Delta h_\text{vap}}{T\Delta v} \end{align}

と表すこともできる。境界線の傾きと,相変化に伴う蒸発熱と体積変化を結び付ける関係式 (\ref{eq:C-Ceq})をClausius–Clapeyronの式という。



参考文献