エントロピー

Dr. SSS 2023/07/31 - 16:28:16 258 熱・統計力学

Clausiusの不等式とエントロピー

温度$T_1$の高熱源で受け取る熱を$Q_1$,温度$T_2$の低熱源で捨てる熱を$Q_2$とした場合,熱機関の効率$\eta$に関して

\begin{equation} \eta = 1-\frac{Q_2}{Q_1} \leq 1 - \frac{T_2}{T_1} \end{equation}

という関係が成り立つのであった。 変形すると

\begin{equation} \label{eq:clausium_ineq_two} \frac{Q_1}{T_1} \leq \frac{Q_2}{T_2} \end{equation}

であり,等式が成り立つのは,サイクルが準静的過程で構成される場合で,そのときには

\begin{equation} \frac{Q_1}{T_1} = \frac{Q_2}{T_2} \end{equation}

である。

ここで,系が受け取る熱を正,捨てる熱を負とするよう,熱 $Q$の定義を変更する。 すると,高熱源では$Q_1>0$を,低熱源では負の熱$Q_2<0$を受け取るわけであるから,(\ref{eq:clausium_ineq_two})は

\begin{equation} \frac{Q_1}{T_1} \leq -\frac{Q_2}{T_2} \end{equation}

と書き直され,右辺を移行すれば

\begin{equation} \frac{Q_1}{T_1} +\frac{Q_2}{T_2} \leq 0 \end{equation}

という対称な形になる。

ここで,それぞれ温度$T_3$,$T_4 \ (T_3>T_4)$の熱源のペアをもう1つ組み合わせても,それらの過程で

\begin{equation} \frac{Q_3}{T_3} +\frac{Q_4}{T_4} \leq 0 \end{equation}

が満たされるから,任意の数の熱源がある場合に一般化して

\begin{equation} \sum_j \frac{Q_j}{T_j} \leq 0 \end{equation}

となる。 $j$が熱源のラベルである。 これを,Clausiusの不等式(Clausius inequality)と呼ぶ。 連続的な極限では

\begin{equation} \label{eq:clausium_ineq_cont} \oint \frac{\delta Q}{T} \leq 0 \end{equation}

となる。

Clausiusの不等式(\ref{eq:clausium_ineq_cont})は,等式が成り立つ場合,すなわち準静的過程の場合において

\begin{equation} \label{eq:entropy_finite} S(X_B)-S(X_A) = \int_A^B \frac{\delta Q}{T} \end{equation}

となる状態量$S$の存在を示唆している。 $X$は状態変数,$A$,$B$は状態を指定するラベルである。 無限小変化の場合は

\begin{equation} dS = \frac{\delta Q}{T} \end{equation}

である。 この状態量$S$を,エントロピー(entropy)と呼ぶ。



エントロピー増大則

(\ref{eq:entropy_finite})を,準静的でない過程を含むよう一般化しよう。 状態$A$から出発し,別の状態$B$を経由して$A$に戻るというサイクルを考える。 このとき,変化過程$AB$は必ずしも準静的ではない過程,$BA$は準静的過程であるとする。 するとClausiusの不等式より

\begin{equation} 0 \geq \int_A^B \frac{\delta Q}{T} + \int_B^A \frac{\delta Q}{T} \end{equation}

が成り立つ。 後半の過程は準静的過程であると仮定しているから,(\ref{eq:entropy_finite})を用いて

\begin{equation} \int_B^A \frac{\delta Q}{T} = -\int_A^B \frac{\delta Q}{T} = -[ S(X_B)-S(X_A) ] \end{equation}

とし,左辺に移項すると

\begin{equation} \label{eq:entropy_finite_general} S(X_B)-S(X_A) \geq \int_A^B \frac{\delta Q}{T} \end{equation}

あるいは,この左辺は$\int_A^B dS$とも表せるから

\begin{equation} \label{eq:entropy_ineq_general} dS\geq \frac{\delta Q}{T} \end{equation}

を得る。 等式が成り立つのは,準静的過程においてのみである。

断熱過程においては$\delta Q=0$であるから,関係(\ref{eq:entropy_ineq_general})より

\begin{equation} dS \geq 0 \end{equation}

となる。 つまり,外界と熱のやり取りができない系の熱力学的エントロピーは必ず増大するのである。 これを,エントロピー増大則(law of increase of entropy)と呼ぶ。


参考文献