Clausiusの不等式とエントロピー
温度$T_1$の高熱源で受け取る熱を$Q_1$,温度$T_2$の低熱源で捨てる熱を$Q_2$とした場合,熱機関の効率$\eta$に関して
\begin{equation}
\eta
=
1-\frac{Q_2}{Q_1}
\leq 1 - \frac{T_2}{T_1}
\end{equation}
という関係が成り立つのであった。
変形すると
\begin{equation}
\label{eq:clausium_ineq_two}
\frac{Q_1}{T_1}
\leq
\frac{Q_2}{T_2}
\end{equation}
であり,等式が成り立つのは,サイクルが準静的過程で構成される場合で,そのときには
\begin{equation}
\frac{Q_1}{T_1}
=
\frac{Q_2}{T_2}
\end{equation}
である。
ここで,系が受け取る熱を正,捨てる熱を負とするよう,熱 $Q$の定義を変更する。
すると,高熱源では$Q_1>0$を,低熱源では負の熱$Q_2<0$を受け取るわけであるから,(\ref{eq:clausium_ineq_two})は
\begin{equation}
\frac{Q_1}{T_1}
\leq
-\frac{Q_2}{T_2}
\end{equation}
と書き直され,右辺を移行すれば
\begin{equation}
\frac{Q_1}{T_1}
+\frac{Q_2}{T_2}
\leq 0
\end{equation}
という対称な形になる。
ここで,それぞれ温度$T_3$,$T_4 \ (T_3>T_4)$の熱源のペアをもう1つ組み合わせても,それらの過程で
\begin{equation}
\frac{Q_3}{T_3}
+\frac{Q_4}{T_4}
\leq 0
\end{equation}
が満たされるから,任意の数の熱源がある場合に一般化して
\begin{equation}
\sum_j \frac{Q_j}{T_j} \leq 0
\end{equation}
となる。
$j$が熱源のラベルである。
これを,Clausiusの不等式(Clausius inequality)と呼ぶ。
連続的な極限では
\begin{equation}
\label{eq:clausium_ineq_cont}
\oint \frac{\delta Q}{T}
\leq 0
\end{equation}
となる。
Clausiusの不等式(\ref{eq:clausium_ineq_cont})は,等式が成り立つ場合,すなわち準静的過程の場合において
\begin{equation}
\label{eq:entropy_finite}
S(X_B)-S(X_A)
=
\int_A^B \frac{\delta Q}{T}
\end{equation}
となる状態量$S$の存在を示唆している。
$X$は状態変数,$A$,$B$は状態を指定するラベルである。
無限小変化の場合は
\begin{equation}
dS
=
\frac{\delta Q}{T}
\end{equation}
である。
この状態量$S$を,エントロピー(entropy)と呼ぶ。
エントロピー増大則
(\ref{eq:entropy_finite})を,準静的でない過程を含むよう一般化しよう。
状態$A$から出発し,別の状態$B$を経由して$A$に戻るというサイクルを考える。
このとき,変化過程$AB$は必ずしも準静的ではない過程,$BA$は準静的過程であるとする。
するとClausiusの不等式より
\begin{equation}
0
\geq
\int_A^B \frac{\delta Q}{T}
+ \int_B^A \frac{\delta Q}{T}
\end{equation}
が成り立つ。
後半の過程は準静的過程であると仮定しているから,(\ref{eq:entropy_finite})を用いて
\begin{equation}
\int_B^A \frac{\delta Q}{T}
= -\int_A^B \frac{\delta Q}{T}
= -[ S(X_B)-S(X_A) ]
\end{equation}
とし,左辺に移項すると
\begin{equation}
\label{eq:entropy_finite_general}
S(X_B)-S(X_A)
\geq
\int_A^B \frac{\delta Q}{T}
\end{equation}
あるいは,この左辺は$\int_A^B dS$とも表せるから
\begin{equation}
\label{eq:entropy_ineq_general}
dS\geq \frac{\delta Q}{T}
\end{equation}
を得る。
等式が成り立つのは,準静的過程においてのみである。
断熱過程においては$\delta Q=0$であるから,関係(\ref{eq:entropy_ineq_general})より
\begin{equation}
dS \geq 0
\end{equation}
となる。
つまり,外界と熱のやり取りができない系の熱力学的エントロピーは必ず増大するのである。
これを,エントロピー増大則(law of increase of entropy)と呼ぶ。