はじめに
ここでは,Markov過程の確率分布の時間発展を記述するマスター方程式について説明する。
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確率論,
確率過程,
非平衡熱力学,
Markov過程
内容
2状態系
まず簡単のために,それぞれ$1$と$2$とラベルされる2種類の状態しかとらない系を考えよう。 この系では,微小な時間$dt$後に系が状態$1$を取る確率は時刻$t$における確率を用いて
\begin{align}
P_1\left(t+dt\right)
=&P_1(t)\times(\text{状態1にとどまる確率})\notag \\
\label {t+dt prob}
&+P_2(t)\times (\text{状態2から1に移る確率})
\end{align}
と表せる。
単位時間あたりに状態1から2に飛び移る遷移確率を$W_{12}$とし,これが時間に独立であるとすれば,(\ref{t+dt prob})と同じものを
\begin{align}
\label {eq:PW}
P_1(t+dt)=P_1(t)(1-W_{12}dt)+P_2(t)W_{21}dt+O(dt^2)
\end{align}
と表すことができる。
最後の項は$dt$の間に1から2に移り,また1に戻る,あるいはそれを複数回繰り返す確率から来るが,並び変えをして$dt\to 0$の極限を取ることでこれらの寄与は消え,微分方程式
\begin{align}
\label {masteqP1}
\frac{dP_1(t)}{dt}=-W_{12}P_1(t)+W_{21}P_2(t)
\end{align}
が得られる。
$P_2(t)$についても同様にして
\begin{align}
\label {masteqP2}
\frac{dP_2(t)}{dt}=-W_{21}P_2(t)+W_{12}P_1(t)
\end{align}
が得られる。
(\ref{masteqP1})および(\ref{masteqP2})が,この2状態系のマスター方程式である。
この式の意味は,改めて(\ref{t+dt prob})あるいは(\ref{eq:PW})より明らかだろう。
(\ref{masteqP1})と(\ref{masteqP2})を足し合わせると
\begin{align}
\frac{dP_1\left(t\right)}{dt}+\frac{dP_2\left(t\right)}{dt}=\frac{d}{dt}\left(P_1\left(t\right)+P_2\left(t\right)\right)=0
\end{align}
となり,確率保存も確認できる。
一般化
任意の数の状態を取りうるケースにおいて,2状態のケースの(\ref{eq:PW})に対応するのは
\begin{align}
P_i(t+dt)
=P_i(t)\left(1-\sum_{j\neq i}W_{ij}dt\ \right)+\sum_{j\neq i}{P_j(t)W_{ji}dt}+O(dt^2)
\end{align}
である。 2状態系の場合と同じようにしてこの式の極限をとることで,一般のマスター方程式
\begin{align}
\label{master eq disc}
\frac{dP_i(t)}{dt}=\sum_{j\neq i}\left[W_{ji}P_j(t) -W_{ij}P_i(t)\right]
\end{align}
が得られる。
また,状態が連続変数$x$で表される場合は,和を積分に置き換え
\begin{align}
\label{master eq cont}
\frac{\pd P(x,t)}{\pd t}= \int dx' \left[W(x|x') P(x',t)-W(x'|x)P(x,t)\right]
\end{align}
となる。