マスター方程式

Dr. SSS 2020/07/09 - 16:47:34 4412 熱・統計力学
はじめに

ここでは,Markov過程の確率分布の時間発展を記述するマスター方程式について説明する。


keywords: 確率論, 確率過程, 非平衡熱力学, Markov過程

内容

2状態系

まず簡単のために,それぞれ$1$と$2$とラベルされる2種類の状態しかとらない系を考えよう。 この系では,微小な時間$dt$後に系が状態$1$を取る確率は時刻$t$における確率を用いて

\begin{align} P_1\left(t+dt\right) =&P_1(t)\times(\text{状態1にとどまる確率})\notag \\ \label {t+dt prob} &+P_2(t)\times (\text{状態2から1に移る確率}) \end{align}

と表せる。

単位時間あたりに状態1から2に飛び移る遷移確率を$W_{12}$とし,これが時間に独立であるとすれば,(\ref{t+dt prob})と同じものを

\begin{align} \label {eq:PW} P_1(t+dt)=P_1(t)(1-W_{12}dt)+P_2(t)W_{21}dt+O(dt^2) \end{align}

と表すことができる。 最後の項は$dt$の間に1から2に移り,また1に戻る,あるいはそれを複数回繰り返す確率から来るが,並び変えをして$dt\to 0$の極限を取ることでこれらの寄与は消え,微分方程式

\begin{align} \label {masteqP1} \frac{dP_1(t)}{dt}=-W_{12}P_1(t)+W_{21}P_2(t) \end{align}

が得られる。 $P_2(t)$についても同様にして

\begin{align} \label {masteqP2} \frac{dP_2(t)}{dt}=-W_{21}P_2(t)+W_{12}P_1(t) \end{align}

が得られる。 (\ref{masteqP1})および(\ref{masteqP2})が,この2状態系のマスター方程式である。 この式の意味は,改めて(\ref{t+dt prob})あるいは(\ref{eq:PW})より明らかだろう。

(\ref{masteqP1})と(\ref{masteqP2})を足し合わせると

\begin{align} \frac{dP_1\left(t\right)}{dt}+\frac{dP_2\left(t\right)}{dt}=\frac{d}{dt}\left(P_1\left(t\right)+P_2\left(t\right)\right)=0 \end{align}

となり,確率保存も確認できる。




一般化

任意の数の状態を取りうるケースにおいて,2状態のケースの(\ref{eq:PW})に対応するのは

\begin{align} P_i(t+dt) =P_i(t)\left(1-\sum_{j\neq i}W_{ij}dt\ \right)+\sum_{j\neq i}{P_j(t)W_{ji}dt}+O(dt^2) \end{align}

である。 2状態系の場合と同じようにしてこの式の極限をとることで,一般のマスター方程式

\begin{align} \label{master eq disc} \frac{dP_i(t)}{dt}=\sum_{j\neq i}\left[W_{ji}P_j(t) -W_{ij}P_i(t)\right] \end{align}

が得られる。

また,状態が連続変数$x$で表される場合は,和を積分に置き換え

\begin{align} \label{master eq cont} \frac{\pd P(x,t)}{\pd t}= \int dx' \left[W(x|x') P(x',t)-W(x'|x)P(x,t)\right] \end{align}

となる。



参考文献