等重率の原理とミクロカノニカル分布

Dr. SSS
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等重率の原理とミクロカノニカル分布

確率密度分布の形

確率密度分布$\rho$の具体的な形を探ろう。 Liouvilleの定理は,$\rho$が運動の積分となることを示している。 分布がなんらかの関数$A(q,p,t)$の関数であるとすると,Liouville方程式より

\begin{equation} \frac{\partial\rho}{\partial t} +\sum_i \left(\dot{q}_i\frac{\partial\rho}{\partial q_i} +\dot{p}_i\frac{\partial \rho}{\partial p_i} \right) = \left[ \frac{\partial A}{\partial t} +\sum_i \left(\dot{q}_i\frac{\partial A}{\partial q_i} +\dot{p}_i\frac{\partial A}{\partial p_i} \right) \right] \frac{\partial \rho}{\partial A} = 0 \end{equation}

であるから,$\rho$は運動の積分の関数によって与えられることを示している。

粒子間の相互作用が無視できる場合,各粒子の状態はその他の粒子の状態に影響を与えない。 よってその場合,確率密度分布は,各粒子の確率密度分布$\rho_1$の積として

\begin{equation} \rho(\bm{q}_1,...,\bm{q}_N,\bm{p}_1,...,\bm{p}_N)= \prod_{i=1}^N \rho_1(\bm{q}_i,\bm{p}_i) \end{equation}

と書ける。 またこれの対数を取れば

\begin{equation} \ln \rho = \sum_i \ln \rho_i \end{equation}

という関係が得られる。 ここで$\rho_1=\rho_1(\bm{q}_i,\bm{p}_i)$。

このような場合を考慮すると,$\rho$は運動の積分の関数であるだけでなく,その対数が示量的な運動の積分であることが推察される。 ある量が示量的であるとは,各部分系の値の総和が系全体の値になるようなものを意味するのであった。 このような運動の積分としては,エネルギー$E$,運動量$\bm{P}$および角運動量$\bm{L}$が考えられる。 よって

\begin{equation} \ln \rho_i = \alpha_i +\beta E_i(p,q) +\bm{\gamma}_i \cdot\bm{P}_i(p,q) +\bm{\delta}_i \cdot\bm{L}_i(p,q) \end{equation}

と置ける。

等重率の原理とミクロカノニカル分布

確率密度分布とは,系の仮想的なコピーの集まりであり,何らかの実在の量の分布を表しているわけではない。 それは,膨大な量の自由度を持つ系を効果的に記述するのに用いる概念的な道具に過ぎないのである。 よって,Liouvilleの定理のような確率密度として満たすべき性質を満たし,かつ系の巨視的な振る舞いを適切に記述する限り,それが実際の微視的状態を忠実に反映している必要はなく,場合に応じて有用な分布を選択すればいい。 最も簡単なのは,系の巨視的なエネルギー$E$,運動量$\bm{P}$および角運動量$\bm{L}$に対応する点において一定で有限の値を持ち,それ以外ではゼロになるような分布である。 これらは定数であるから,Liouvilleの定理を当然満たす。

しかし,エネルギー$E$,運動量$\bm{P}$および角運動量$\bm{L}$という7つの量が一定であることで定められる領域は,$2s$次元の中で,$2s-7$次元の超曲面を構成する。 例えば,3次元空間内で2次元の曲面が占める体積を求めると,厚さが無限小であるためにゼロになるように,このような$2s-7$次元の超曲面の点を集めても,$\int \rho dqdp$への寄与はゼロである。 この問題を修正するには,デルタ関数を用いて

\begin{equation} \label{eq:microcanonical_distribution} \rho = C \delta(E-E_0) \delta(\bm{P}-\bm{P}_0) \delta(\bm{L}-\bm{L}_0) \end{equation}

とすればいい。 ここで$C$は 規格化のための定数である。 このような分布を,\textbf{ミクロカノニカル分布(microcanonical distribution)という。

統計力学の考察の対象としては,実験的にも理論的にも,容器に閉じ込められた系を考えることが多いが,このような場合,運動の積分はエネルギーのみとなる。 容器として固い箱を考えると,箱内部の粒子は壁との衝突によりエネルギーは保存するが,運動の向きを変えるから,運動量や角運動量は保存しないためである。 そのため,運動の積分としてエネルギーのみを考えることにすれば,ミクロカノニカル分布は

\begin{equation} \rho = C\delta(E-E_0) \end{equation}

となる。

$C$を定数としたことから,このモデルは,系全体のHamiltonian$H(q,p)$の値が$E=H(p,q)$を満たす状態はすべて等しい確率で実現されるという仮定に基づくものである($q,p$はそれぞれ系を構成するすべての粒子の位置と運動量をまとめて表したものである)。 この仮定を,等重率の原理(principle of equal probabilities)という。 したがって

\begin{equation} CW(E) = \int \rho dqdp = 1 \end{equation}

つまり,$E-\delta E < E_i \leq E$なら

\begin{equation} \rho =\frac{1}{W(E)} \end{equation}

で,それ以外は$0$である。 ここで$W(E)$は,エネルギーが$E-\delta E < H \leq E$を満たす状態の総数で,状態密度(density of states)と呼ばれる。

References

  • Landau, L. D. and Lifshitz, E. M. (2013). Statistical Physics (Course of Theoretical Physics, Vol. 5). Pregamon press.
    ――(1980). ランダウリフシッツ統計物理学 上・下. 小林秋男ほか訳. 岩波書店.