水の上に微粒子を浮かべると,不規則な運動を見せる。 この運動は,最初にこの現象の詳細な記録をし,1828年に論文として発表したRobert Brownにちなんで,Brown運動と呼ばれる。 これは,熱運動する液体中の分子が,微粒子に不規則に衝突することによって引き起こされるが,この説明は,1905年,いわゆる奇跡の年にEinsteinによって与えられた。
毎ステップごとの運動の方向がランダムに決まる過程をランダムウォークという。 乱雑な熱運動をする分子の衝突による位置の変化をランダムウォークとみなすことで,微粒子の運動を簡易的に記述することができる。 この手法を用いて微粒子が時間の経過と共に初期位置からどのように遠ざかって行くかを見積もってみよう。
簡単のために1次元で考える。 $\Delta t$を1ステップの時間幅に取り,粒子は各ステップごとに,右か左に$a$だけ移動するとする。 外力はなく液体は一様とすれば,右に行く確率$p_R$も左に行く確率$p_L$も等しく$p_R=p_L=p=1/2$とみなせる。 すると,初期位置を原点にとれば,1ステップごとの移動距離$\Delta x$の平均は
となる。 毎ステップこの平均は変わらないため,任意のステップ数$n$を経た後でも,位置の平均は0である。 他方,位置変化の2乗$(\Delta x)^2$の平均は
と有限な値になる。 よって,$N$ステップ後の位置の2乗の期待値は
となる。
ここで,拡散係数(diffusion coefficient)
を定義し,$t=N\Delta t$を用いれば
となる。 このルートを取ることで,時刻$t$後の移動距離を
と見積もることができる。 移動距離の$\propto t^{1/2}$というこの時間依存性が,この現象の特徴の1つを表している。
上述の議論を2次元に拡張し,数値的に計算を行った。 Descartes座標系$(x,y)$を取り,乱数を用いて各ステップごとに$a$だけ$x$軸方向,$y$軸方向ともに,$1/2$の確率で正または負の方向に移動するようにし,移動距離の2乗
を計算した。
変数はすべて無次元で,$a=2\times10^{-3}$,ステップ数は$N=10^5$とした。 図1はその軌道をプロットしたものだ。トップ画も同様の計算結果の1つである。
図1:ランダムウォーク軌道
図2は,同様の計算を100回行い,$r^2$の平均を取ったもの。 グラフはほぼ線形になっており,この傾きが拡散係数に対応している。
図2:ステップ数に対する移動距離の2乗の平均