【位相幾何学】内部、境界、閉包
Introduction
『距離空間と位相』では,距離空間$X$の部分集合$A$内の点列のすべての極限(集積点)が,$A$の内部に含まれるかどうか,すなわち極限に関して閉じているかどうかによって,開集合および閉集合という概念が定義されることを説明した。 ここでは,その集合の「内部」や「境界」などといった概念にも形式的な定義を与え,開集合,閉集合との関係を見る。
内部,境界,閉包の定義
トップ画は,以下で紹介する概念のいくつかに関するイメージになっているため,その都度参照しながら読み進めてもらいたい。
以下,$X$を距離空間,$A$をその部分集合とする。
定義: $X$の点$x$が$U \subset A$となる近傍$U$を持つとき,$x$を$A$の内点(interior point)という。 そして,$A$の内点全体の集合を$A$の内部(interior)と呼び,$\text{Int} A$と表す。
定義: 任意の近傍$U\subset A$に対して
となる点を,$A$の触点(adherent point)という。
触点とは,すなわちどんなに小さな近傍を取っても,$A$の点を含んでしまうような点$x$のことである。 この定義より,$A$の内点であれば$A$の触点でもあるが,触点であるからといって$A$の内点である必要はない。
定義: $A$の触点全体を,$A$の閉包(closure)といい,$\bar{A}$で表す。
定義: $\overline{A}=X$であるとき,$A$は$X$で稠密(dense)であるという。
つまり,$A$が$X$で稠密であるとは,$X$のどの点をとっても,その近傍に$A$が含まれるということなので,$A$が$X$にみっちり含まれているような状態である。
以上の定義より,$A$とその内部および閉包との間には
という包含関係が成り立つ。 これより,$X$は$A$の内部$\text{Int}A$と,閉包$\bar{A}$から内部$\text{Int}A$を取り除いたもの(すなわち差集合$\overline{A}-\text{Int} A$)および$X$から閉包$\bar{A}$を取り除いた$X-\overline{A}$に分割される。 これより,次のような直感的にもわかりやすい概念が定義される。
定義: 開集合$\bar{A}-\text{Int} A$を$A$の境界(boundary)と呼び,$\partial A$と表す。 また,$\partial A$の点を境界点(boundary point)という。
定義: 開集合$X-\overline{A}$を,$A$の外部(exterior)といい,その点を外点(exterior point)と呼ぶ。
改めて整理すると,$X$の点のうち,どんなに小さな近傍をとっても,部分集合$A$の点を含んでしまうような点の集合を,$A$の閉包といい,その点を触点という。 触点のうち,$A$の点であるものが$A$の内部を定義する。 対して,$A$の外部は$X-A$ではなく,$X-\bar{A}$で定義される。 そして,$X$のうち,$A$の内部でも外部でもない部分が,境界である。
触点と良く似た概念として集積点というものがあったが,$A \subset X$の集積点とは,$x$の任意の近傍$U$が$x$以外の$A$の点を含むもの,すなわち
となる$x\in X$と定義されていたため,異なる概念である。 実際,(\ref{eq:def_accum_point})が成り立てば(\ref{eq:def_adh_point})も成り立つため,集積点であれば触点でもあるが,部分集合として1点$x\in X$だけからなるような集合$A=\{x\}$を考えると,(\ref{eq:def_adh_point})は成り立つが(\ref{eq:def_accum_point})は成り立たないため,触点であるからといって集積点でもあるとは言えない。 この例のように,$A$の点であるが$A$の集積点とはならない点を,$A$の孤立点(isolated point)という。
開集合と閉集合との関係
開集合と閉集合は,境界という概念を用いて次のようにも定義できる:
定義: $X$を距離空間,$A$をその部分集合とする。 $A$がその境界$\pd A$を含むとき,すなわち$\pd A \subset A$のとき,$A$を$X$の閉集合という。 他方,$A$がその境界との共通部分を持たないとき,すなわち$A\cap \pd A =\emptyset$のとき,$A$を$X$の開集合という。
(\ref{eq:A_rel})の関係で見ると,$\text{Int}A = A$が成り立つものが開集合,$A= \bar{A}$が成り立つのが閉集合である。
References
――(1987). 物理学における幾何学的方法. 家 正則, 観山 正見, 二間瀬 敏史 訳. 吉岡書店.