ある集合の元をある規則に従って並べたものを点列というのであった。 より形式的に述べると,集合$X$の点列とは,集合$X$に対して,自然数の集合$N$の元から$X$の元を対応付ける写像
のことである。
これに対して次の概念を定義する。
定義: $x_1,x_2,...,x_n,...$を距離空間$X$の点列とする。 任意の正数$\varepsilon$に対して,自然数$k$が存在し,$m,n>k$ならば$d(x_m,x_n)<\varepsilon$が成り立つとき,この点列を基本列(fundamental sequence)あるいはCauchy列(Cauchy sequence)という。
つまり,$m,n$を大きくしていけば,二点間の距離$d(x_m,x_n)$がどんどん小さくなっていくような列のことである。 例えば次のような例が単純でわかりやすい。
例: 開区間$(0,1)$に対し,点列 \[ \frac{1}{2},\frac{1}{3},...,\frac{1}{n},... \] はCauchy列である($1\notin (0,1)$であるから,この空間の点列の像に1は含まれないことに注意)。
収束列はCauchy列である。 実際,$\{x_n\}$が収束する列であること,すなわち$\lim_{n\to\infty}x_n\to x$とすると,任意の$\varepsilon>0$に対し,ある$k$が存在し,$n>k$ならば$d(x_n,x)<\varepsilon/2$となる。 よって,$m,n>k$に対し
が成り立つ。
他方,Cauchy列であるからといって収束するとは限らない。
例: 開区間$(0,1)$に対し,点列 \[ \frac{1}{2},\frac{1}{3},...,\frac{1}{n},... \] はCauchy列であるが,極限である0が含まれないため,$(0,1)$においては収束列ではない。
定義: 距離空間$X$の任意のCauchy列が収束するとき,$X$は完備(complete)であるという。
例: 上の例からわかるように,開区間$(0,1)$は完備ではない。
例: 任意の$n$に対し,$R^n$は完備距離空間である。
$R$と$(0,1)$は同相であるから,これらの例より,完備性は位相的な性質ではないことが分かる。 位相空間一般には,Cauchy列や完備性という概念はない。