はじめに
ここでは,ベクトル場の回転と,ある閉曲線に沿ったあるベクトル場の線積分をそのベクトル場の回転の面積分と結び付けるStokesの定理(Stokes' theorem)
\begin{equation}
\notag
\oint_C \bm{A}\cdot d\bm{s} =\int_S (\nabla \times \bm{A}) \cdot d\bm{S}
\end{equation}
について説明する。 はじめにStokesの定理について説明し,回転の直観的な意味については最後に説明する。
Stokesの定理
3次元ベクトル場$\bm{A}$の回転(rotation)は
\begin{equation}
\label{eq:rot_A}
\nabla \times \bm{A}
\equiv
\left( \frac{\pd A_z}{\pd y} -\frac{\pd A_y}{\pd z},
\frac{\pd A_x}{\pd z} -\frac{\pd A_z}{\pd x},
\frac{\pd A_y}{\pd x} -\frac{\pd A_x}{\pd y}
\right)
\end{equation}
で定義される。
この量の意味は以下で説明する。
まず,閉曲線に沿ったベクトル場の線積分を考える。
$z$軸に垂直な微小長方形を考え,その4辺を一周する閉曲線を$C$とする。
出発点を左下の頂点とし,そこでの座標を$(x,y,z)$と取る。水平な辺の長さを$\Delta x$,それと垂直な辺の長さを$\Delta y$とするとベクトル場$\bm{A}$の経路$C$に沿った線積分は
\begin{equation}
\begin{split}
\oint_C \bm{A}\cdot d\bm{s}
=& \int_x^{x+\Delta x} A_x(x,y,z) dx + \int_y^{y+\Delta y} A_y(x+\Delta x,y,z) dy \\
%
&+\int_{x+\Delta x}^x A_x(x,y+\Delta y ,z) dx + \int_{y+\Delta y}^y A_y(x,y,z) dy \\
%
=& A_x(x,y,z) \Delta x + A_y(x+\Delta x,y,z)\Delta y \\
%
&-A_x(x,y+\Delta y ,z) \Delta x - A_y(x,y,z) \Delta y
\end{split}
\end{equation}
となる(図1参照)。
1項目と3項目,2項目と4項目の組み合わせからそれぞれ
\begin{align}
\left( A_x(x,y,z) -A_x(x,y+\Delta y ,z) \right) \Delta x
\simeq&
-\frac{\pd A_x}{\pd y} \Delta x \Delta y \\
%
\left( A_y(x,+\Delta x, y,z) -A_y(x, y, z) \right) \Delta y
\simeq&
\frac{\pd A_y}{\pd x} \Delta x \Delta y
\end{align}
とできるから,さらに
\begin{equation}
\oint_C \bm{A}\cdot d\bm{s}
= \left( \frac{\pd A_y}{\pd x} -\frac{\pd A_x}{\pd y} \right) \Delta x \Delta y
\end{equation}
と計算できる。$\oint$は閉曲線を周回する積分であることを表している。
ここで$(...)$の中身はベクトル場$\bm{A}$の回転$\nabla \times \bm{A}$の$z$成分であり,$\Delta x \Delta y $は微小長方形の面積である。
そこで,$z$方向を向いた面積要素ベクトル$d\bm{S}$を用いることで
\begin{equation}
\oint_C \bm{A}\cdot d\bm{s}
= (\nabla \times \bm{A}) \cdot d\bm{S}
\end{equation}
と表すことができる。
これは面積要素が任意の方向を向いているケースに拡張することができる。
このとき,反時計回りの向きに右手の手首をクイっとしたとき,親指が向く方を面積ベクトルの向きとする(いわゆる右ネジの方向)。
また,Gauss定理と同様の考えから,経路が任意の形状をしていても,限りなく微小な長方形の組み合わせで近似できるため,結局,任意の閉曲線$C$に沿ったベクトル場の線積分は
\begin{equation}
\oint_C \bm{A}\cdot d\bm{s} =\int_S (\nabla \times \bm{A}) \cdot d\bm{S}
\end{equation}
と,面積分で置き換えることができる。これが,Stokesの定理(Stokes' theorem)と呼ばれるものである。
回転のイメージ
回転の直観的な意味を考えよう。先ほどの微小長方形の領域に,図2のような文字通り回転する十字型の器具を置く。
\begin{comment}
\end{comment}
これを水中とするならベクトル場を水の流れ,空気中なら風のようなものと考える。
すると,そのベクトル場の$y$成分がこの器具を反時計回りに回転させる勢いは,腕の長さ$\Delta x/2$をかけ$x$と$x+\Delta x$での差を取って
\begin{equation}
\frac{1}{2}\left( A_y(x+\Delta x,y,z) - A_y(x,y,z)\right)\Delta x
= \frac{1}{2}\frac{\pd A_y}{\pd x} (\Delta x)^2
\end{equation}
であり,$x$成分についても同様の考えから
\begin{equation}
\frac{1}{2}\left( A_x(x,y,z) - A_x(x,y+\Delta y, ,z)\right)\Delta y
= -\frac{1}{2}\frac{\pd A_x}{\pd y} (\Delta y)^2
\end{equation}
となる。
微小変位の二次の差は無視できるとして$(\Delta x)^2/2 \sim (\Delta y)^2/2 \sim h^2$とすれば(あるいは初めから微小領域を正方形にとってもいい),回転の勢いは
\begin{equation}
\left( \frac{\pd A_y}{\pd x}-\frac{\pd A_x}{\pd y} \right) h^2
\end{equation}
と見積られる。この$(...)$内の量は(\ref{eq:rot_A})の$z$成分と一致する。
そしてもちろん,これを任意の方向を向いた面について議論できる。
これが,ベクトル場の回転の直観的なイメージである。