はじめに
2つの演算子$\hat{A}$,$\hat{B}$が与えられたとき,$$[\hat{A},\hat{B}]\equiv \hat{A}\hat{B}-\hat{B},\hat{A}$$を交換子(commutator)と呼び,交換子を用いて与えられる関係を,交換関係(commutation relation)と呼ぶ。ここでは,量子力学において特に重要となる正準交換関係ついて説明する。
keywords:
交換関係,
量子力学
内容
正準交換関係
簡単のため,まず1次元の例で考える。
量子力学では,運動量と座標はそれぞれ
\begin{align}
\hat{p} \psi(x)=& -i\hbar \frac{\pd}{\pd x} \psi(x) \\ \hat{x} \psi(x) =& x \psi(x)
\end{align}
という対応する演算子に置き換えられる。
ここで
\begin{align}
(\hat{p}\hat{x}-\hat{p}\hat{x})\psi(x)
\end{align}
という順序を入れ替えた演算を考えてみる。
古典力学では,$(xp-px)=0$であるが,量子力学の場合,運動量演算子は関数$\psi(x)$だけなく座標$x$にもひっかかるため
\begin{align}
(\hat{p}\hat{x}-\hat{p}\hat{x})\psi(x) =& -i\hbar \left( x\frac{\pd \psi}{\pd x}-\frac{\pd(x\psi)}{\pd x} \right) \notag \\
=& -i\hbar \left( x\frac{\pd \psi}{\pd x}-x\frac{\pd\psi}{\pd x} -\psi \right) \notag \\
=& i\hbar \psi(x)
\end{align}
となる。この正準共役にある変数同士が交換子の演算の下で満たす関係を正準交換関係(canonical commutation relation)といい
\begin{align}
[\hat{x},\hat{p}] \equiv \hat{p}\hat{x}-\hat{p}\hat{x}
=i\hbar
\end{align}
と表される。3次元への拡張は容易で
\begin{align}
[\hat{x}_i,\hat{p}_j]=i\hbar \delta_{ij}, \ \ i,j=1,2,3
\end{align}
となることが確かめられる。
ここで$\delta_{ij}$はKroneckerのデルタで,$i=j$のときに1となり,それ以外はすべて0となる。
諸関係
(\ref{eq:QM_replace})の置き換えに対応し,量子力学なHamiltonianは
\begin{align}
\hat{H}
=
\frac{\hat{p}^2}{2m}+V(x)
\end{align}
という演算子として与えられる。
ここで,$V(x)$はポテンシャルエネルギーに対応する演算子であるが,単に$V$をかけるだけの演算子である。
Hamiltonianと位置演算子の交換関係は
\begin{align}
\notag
\left[\hat{H},\hat{x}\right]
&=\left[\frac{ \hat{p}^2}{2m}+V,\hat{x}\right]
=\frac{1}{2m}\left[{\hat{p}}^2,\hat{x}\right]
=\frac{1}{2m} \left( \hat{p} \left[ \hat{p},\hat{x} \right] + \left[ \hat{p},\hat{x} \right] \hat{p} \right) \\
&=-\frac{i\hbar}{m} \hat{p}
\end{align}
Hamiltonianと運動量の交換関係は
\begin{align} \notag
\left[\hat{H},\hat{p}\right]
&=\left[\frac{{\hat{p}}^2}{2m}+V,\hat{p}\right] \\ \notag
&=V\left(-i\hbar\frac{\partial}{\partial x}\right)-\left(-i\hbar\frac{\partial}{\partial x}V\right) \\
&=i\hbar\frac{\partial}{\partial x}V
\end{align}
と計算される。