軌道角運動量

Dr. SSS 2019/08/29 - 21:10:00 量子力学
はじめに

ここでは,角運動量演算子の表現と,その固有関数について解説する。


keywords: 量子力学, 角運動量, 球面調和関数

内容

角運動量演算子

Cartesian座標では,角運動量演算子は次のように定義される:

\begin{align} \hat{L}_{x} & \equiv \hat{y} \hat{p}_{z}-\hat{z} \hat{p}_{y} \\ \hat{L}_{y} & \equiv \hat{z} \hat{p}_{x}-\hat{x} \hat{p}_{z} \\ \hat{L}_{z} & \equiv \hat{x} \hat{p}_{y}-\hat{y} \hat{p}_{x} \end{align}

Levi-Civita記号を用いれば

\begin{align} \notag \hat{L}_{i}=& \epsilon_{i j k} \hat{x}_{j} \hat{p}_{k} \\ =&-i \hbar \epsilon_{i j k} x_{j} \frac{\pd}{\pd x_{k}} \end{align}

と表せる。 ここで,繰り返しの添え字は和を取るとする(ここでは$j$と$k$)。 極座標で表せば

\begin{equation} \label {polarL} \begin{split} \hat{L}_{x} &=i \hbar\left(\sin \phi \frac{\pd}{\pd \theta}+\cot \theta \cos \phi \frac{\pd}{\pd \phi}\right) \\ \hat{L}_{y} &=i \hbar\left(-\cos \phi \frac{\pd}{\pd \theta}+\cot \theta \sin \phi \frac{\pd}{\pd \phi}\right) \\ \hat{L}_{z} &=-i \hbar \frac{\pd}{\pd \phi} \end{split} \end{equation}

となる。ここで$\cot \theta=1/\tan \theta$である。

これら各成分ごとの交換関係は

\begin{align} \left[\hat{L}_{x}, \hat{L}_{y}\right]=i \hbar \hat{L}_{z}, \quad\left[\hat{L}_{y}, \hat{L}_{z}\right]=i \hbar \hat{L}_{x}, \quad\left[\hat{L}_{z}, \hat{L}_{x}\right]=i \hbar \hat{L}_{y} \end{align}

となる。改めてコンパクトな表記をすると

\begin{align} \left[\hat{L}_{i}, \hat{L}_{j}\right]=i \hbar \epsilon_{i j k} \hat{L}_{k} \end{align}

である。これより,角運動量の2つ以上の成分を同時に確定できないということがわかる。

全角運動量演算子

\begin{align} \label {Ltot2} \hat{L}^{2}=\sum_{i=1}^{3} \hat{L}_{i}^{2}=\hat{L}_{x}^{2}+\hat{L}_{y}^{2}+\hat{L}_{z}^{2} \end{align}

を定義すると,これは各成分と交換することがわかる:

\begin{align} \left[\hat{L}^{2}, \hat{L}_{x}\right]=\left[\hat{L}^{2}, \hat{L}_{y}\right]=\left[\hat{L}^{2}, \hat{L}_{z}\right]=0 \end{align}

つまり,全角運動量と各成分は同時に確定できる。

また,後の便利のために

\begin{align} \label{Lpm} \hat{L}_{+}=\hat{L}_{x}+i \hat{L}_{y}, \quad \hat{L}_{-}=L_{x}-i \hat{L}_{y} \end{align}

を定義する。これらの演算子は

\begin{align} \label {Lpm com} \left[\hat{L}_{z}, \hat{L}_{ \pm}\right]=&\pm \hbar \hat{L}_{ \pm} \\ \left[\hat{L}_{+}, \hat{L}_{-}\right]=&2 \hbar \hat{L}_{z} \end{align}

および

\begin{align} \hat{L}^{2} =& \hat{L}_+ \hat{L}_-+\hat{L}_z^2 -\hbar \hat{L}_z \\ =& \hat{L}_- \hat{L}_+ +\hat{L}_z^2+\hbar \hat{L}_z \end{align}

の関係を満たす。


固有関数

確定した角運動量成分の方向を$z$とし,その固有値を$m\hbar$とすると,固有関数$\psi$は

\begin{align} -i \hbar \frac{\pd}{\pd \phi} \psi = m\hbar \psi \end{align}

より

\begin{align} \psi \propto e^{im\phi} \end{align}

の形をしていることがわかる。 $\phi \to \phi+2\pi$と角度座標を一周してきたとき,$\psi$が元に戻らないといけないから,$m$は整数でないといけないとわかる:

\begin{align} m=0, \pm 1, \pm2, ... \end{align}

ここで,(\ref{Lpm})を演算した関数$\hat{L}_\pm \psi$に$\hat{L}_z$を演算子,(\ref{Lpm com})を使うと

\begin{align} \hat{L}_{z} \hat{L}_{\pm} \psi =\left(\hat{L}_{\pm} \hat{L}_{z} \pm \hbar \hat{L}_{+}\right) \psi =\hbar(m \pm 1) \hat{L}_{\pm} \psi \end{align}

となることがわかる。 つまり,$\hat{L}_\pm \psi$は,固有値$\hbar(m\pm 1)$を持つ$\hat{L}_z$の固有関数になっている。 よって,固有値$m \hbar$を取る固有関数を$\psi_m$と表記すれば

\begin{align} \psi_{m\pm 1} \propto \hat{L}_{\pm} \psi_m \end{align}

の関係を満たす。

(\ref{Ltot2})より,$m$が全角運動量演算子の固有値より大きい値は取れないことがわかる。 つまり,$m$の絶対値には上限があり,これを$l$とすると

\begin{align} \hat{L}_+ \psi_l=0 \end{align}

でないといけないことになる。 これにさらに$\hat{L}_-$を演算すると

\begin{align} \hat{L}_- \hat{L}_+ \psi_l =(\hat{L}^2- \hat{L}_z^2-\hbar \hat{L}_z)\psi_l =0 \end{align}

となる。 $\hat{L}^2$の固有値を$L^2$とすると

\begin{align} L^2-\hbar^2 l(l+1)=0 \end{align}

となるから,全角運動量演算子の固有値が

\begin{align} L^2=\hbar^2 l(l+1) \end{align}

とわかる。 $m^2 \leq L^2$でないといけないから,これより$m$が取りうる値は全部で

\begin{align} m=-l , -l+1, ..., l-1, l \end{align}

と$2l+1$個に限られることがわかる。

角運動量の固有関数を,固有値に現れたパラメータ$l$と$m$を使って$Y_{lm}(\theta,\phi)$と表す。規格化条件は

\begin{align} \int |Y_{lm}|^2 \sin{\theta} d\theta d\phi =1 \end{align}

と課される。そして

\begin{align} \label {eqY} Y_{lm}=\Phi_m(\phi) \Theta_{lm} (\theta) \end{align}

と変数分離する。ここで,$\Phi_m(\phi)$は$\hat{L}_z$の固有関数で,規格化条件

\begin{align} \int_0^{2\pi} \Phi_m^*(\phi)\Phi_{n}(\phi)d\phi=\delta_{mn} \end{align}

より

\begin{align} \label {solPhi} \Phi_m(\phi)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{im\phi} \end{align}

と決まる。 (\ref{polarL})より

\begin{align} \hat{L}^{2} \equiv-\hbar^{2}\left[\frac{1}{\sin \theta} \frac{\partial}{\partial \theta}\left(\sin \theta \frac{\partial}{\partial \theta}\right)+\frac{1}{\sin ^{2} \theta} \frac{\partial^{2}}{\partial \phi^{2}}\right] \end{align}

となるから,全角運動量保存の式

\begin{align} \hat{L}^{2} Y_{lm}(\theta, \phi)=l(l+1) \hbar^{2} Y_{lm}(\theta, \phi) \end{align}

\begin{align} \left[\frac{1}{\sin \theta} \frac{\pd}{\pd \theta}\left(\frac{1}{\sin \theta} \frac{\pd}{\pd \theta}\right)+\frac{1}{\sin ^{2} \theta} \frac{\pd^{2}}{\pd \phi^{2}}\right] Y_{l m}(\theta, \phi)=-l(l+1) Y_{l m}(\theta, \phi) \end{align}

であり,これに(\ref{eqY})を入れることで,$\Theta$の式

\begin{align} \left[\frac{1}{\sin \theta} \frac{\partial}{\partial \theta}\left(\frac{1}{\sin \theta} \frac{\partial}{\partial \theta}\right)+\left\{l(l+1)-\frac{m^{2}}{\sin ^{2} \theta}\right\}\right] \Theta_{l m}(\theta)=0 \end{align}

が得られる。ここで$z=\cos{\theta}$と変数変換すると

\begin{align} \frac {d} {dz} \left\{ (1-z^2) \frac {d \Theta_{lm} (z) }{dz} \right\} + \left( l(l+1) - \frac {m^2 } {1-z ^2} \right) \Theta_{lm} (z) = 0 \end{align}

となる。ここまで来ればご苦労様だ。 この形の方程式の解は知られており,Legendre陪多項式$P_{l}^{|m|}(\cos \theta)$で与えられる。 したがって,規格化定数を考慮すると$\Theta_{lm} (\theta) $は

\begin{align} \Theta_{lm} (\theta) = \sqrt{\frac{2 l+1}{4 \pi} \frac{(l-|m|) !}{(l+|m|) !}} P_{l}^{|m|}(\cos \theta) \end{align}

とわかる。(\ref{solPhi})と合わせることで最終的に

\begin{align} Y_{l m}(\theta, \phi) = (-1)^{(m+|m|)/2}\sqrt{\frac{2 l+1}{4 \pi} \frac{(l-|m|) !}{(l+|m|) !}} P_{l}^{|m|}(\cos \theta) e^{i m \phi} \end{align}

を得る。



まとめ

角運動量演算子
  • 角運動量演算子の各成分$L_i$同士の交換関係

    \begin{align*} \left[\hat{L}_{i}, \hat{L}_{j}\right]=i \hbar \epsilon_{i j k} \hat{L}_{k} \end{align*}

  • 全角運動量演算子$L^2$と,各成分$L_i$の交換関係

    \begin{align*} \left[\hat{L}^{2}, \hat{L}_{i}\right]=0 \end{align*}

  • 全角運動量演算子と,$L_z$の固有値

    \begin{align*} \hat{L}^{2} Y_{lm}(\theta, \phi) =&\hbar^{2} l(l+1) Y_{lm}(\theta, \phi) \\ \hat{L}_z Y_{lm}(\theta, \phi) =& \hbar m Y_{lm} (\theta, \phi) \end{align*}


固有関数
  • 角運動量演算子の固有関数

    \begin{align*} Y_{lm}=\Phi_m(\phi) \Theta_{lm} (\theta) \end{align*}

    ここで

    \begin{align*} \Phi_m(\phi)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{im\phi} \end{align*}

    および

    \begin{align*} \Theta_{lm} (\theta) = \sqrt{\frac{2 \ell+1}{4 \pi} \frac{(\ell-|m|) !}{(\ell+|m|) !}} P_{\ell}^{|m|}(\cos \theta) \end{align*}

    である。


参考文献


自然科学に関する質問やノート作りは『AfterSchool』で。