はじめに
この記事では,フェルミオンの第二量子化について説明する。ボゾンのケースについての項に目を通していることを前提とするため,そちらで説明したことを改めて詳しく説明しなおすことはしない。
粒子の入れ替え
フェルミオンの場合,粒子交換について反対称であるため,少し取り扱いが変ってくる。
例えば,状態$1$から$i-1$まで粒子が詰まっているが,それ以降の状態を占有する粒子はいない状態を考える。
このときの状態は
\begin{align}
|1_1,1_2,...,1_{i-1},0_i,0_{i+1},...\rangle
=
\hat{a}^\dagger_1 \hat{a}^\dagger_2...\hat{a}^\dagger_{i-1}
|0\rangle
\end{align}
と書ける。
そして,これに$\hat{a}^\dagger_i$を演算した結果は
\begin{align}
\hat{a}^\dagger_i
\hat{a}^\dagger_1 \hat{a}^\dagger_2...\hat{a}^\dagger_{i-1}
|0\rangle
=
|1_i, 1_1,1_2,...1_{i-1},0_{i+1},...\rangle
\end{align}
である。
状態数のラベル順に表すためには,$i-1$回の入れ替えをする必要があるため,入れ替えごとに$-1$がかかり
\begin{align}
\label {perm}
\hat{a}^\dagger_i
\hat{a}^\dagger_1 \hat{a}^\dagger_2...\hat{a}^\dagger_{i-1}
|0\rangle
=
(-1)^{i-1} |1_1,1_2,...,1_{i-1},1_i,0_{i+1},...\rangle
\end{align}
となる。
では,状態$1$から$i-1$の間にも,占有されていない状態がある場合はどうか。
この場合,必要な入れ替えの回数は,(\ref{perm})の場合のより空いている状態の数だけ少なくなる。
この必要な回数を一般的な形に表すのに,フェルミオンの占有数$N_i$は$0$か$1$しかとりえないという性質が有用になる。
\begin{align}
\label {sumN}
\sum (i,j) \equiv
\sum_{n=i}^{j} N_n
\end{align}
という和を定義し
\begin{align}
\sum (1,i-1) =
\sum_{n=1}^{i-1} N_n
\end{align}
という和をとってやれば,$1$から$i-1$番目の状態のうちで,占有されている状態の数が与えられる。よって,(\ref{perm})を一般化した表現として
\begin{align}
\label {-1rel}
\hat{a}^\dagger_i
|0_i \rangle
=
(-1)^{\sum (1,i-1)} |1_i \rangle
\end{align}
が得られる。
(\ref{sumN})は,$i=j, \ j\pm1$のときは,$0$であるとする。
(\ref{-1rel})に左から$\langle 1_i|$をかけると
\begin{align}
\langle 1_i| \hat{a}^\dagger_i |0_i \rangle
=
\langle 0_i| \hat{a}_i |1_i \rangle
=
(-1)^{\sum (1,i-1)}
\end{align}
となる。
ここで,$i$とは別の状態$k(>i)$も陽に表しておこう。
すると上の式の再左辺は
\begin{align}
\langle 1_i, 0_k| \hat{a}^\dagger_i |0_i,0_k \rangle
=
(-1)^{\sum (1,i-1)}
\end{align}
と表せる。
真ん中も同様にしつつ,ラベルを入れ替えて
\begin{align}
\langle 0_i, 0_k| \hat{a}_k |0_i, 1_k \rangle
=
(-1)^{\sum (1,i-1) + \sum(i+1,k-1)}
\end{align}
とできる。
交換回数の数え方は,$1$から$i-1$まで数えて,$i$は$0$なので飛ばして,また$i+1$から$k-1$まで数えている。
そしてこれらをかけわせることで
\begin{align}
\label {Nop1}
\langle 1_i, 0_k| \hat{a}^\dagger_i \hat{a}_k |0_i, 1_k \rangle
=
\langle 1_i, 0_k| \hat{a}^\dagger_i |0_i,0_k \rangle
\langle 0_i, 0_k| \hat{a}_k |0_i, 1_k \rangle
=
(-1)^{\sum(i+1,k-1)}
\end{align}
の関係が得られる。
$i=k$の場合,(\ref{Nop1})は
\begin{align}
\langle N_i| \hat{a}^\dagger_i \hat{a}_i |N_i \rangle
=\left \{
\begin{array}{ll}
0 & \text{if} \ \ N_1=0 \\
1 & \text{if} \ \ N_1=1
\end{array}
\right.
\end{align}
であるため,フェルミオンの場合も$\hat{a}^\dagger_i \hat{a}_i$は数演算子$\hat{N}_i$とみなせる。
交換関係
今度は
\begin{align}
\langle 1_i, 1_k| \hat{a}^\dagger_i |0_i,1_k \rangle
=
(-1)^{\sum (1,i-1)}
\end{align}
と
\begin{align}
\langle 1_i, 0_k| \hat{a}_k |1_i, 1_k \rangle
=
(-1)^{\sum (1,i-1) +1+ \sum(i+1,k-1)}
\end{align}
という行列を考える。
2つ目の式は,$i$の占有数が$0$でない分が$-1$のべき数に数え上げられていることに注意しよう。
今度はこれらを逆の順番でかけあわせると
\begin{align}
\langle 1_i, 0_k| \hat{a}_k \hat{a}^\dagger_i |0_i,1_k \rangle
=&
\langle 1_i, 0_k| \hat{a}_k |1_i, 1_k \rangle
\langle 1_i, 1_k| \hat{a}^\dagger_i |0_i,1_k \rangle
\notag \\
=&
(-1)^{\sum(i+1,k-1)+1} \notag \\
\label {Nop2}
=&-(-1)^{\sum(i+1,k-1)}
\end{align}
が得られる。
これと(\ref{Nop1})を足し合わせることで,$i\neq k$の場合において
\begin{align}
\hat{a}_k \hat{a}^\dagger_i
+
\hat{a}^\dagger_i \hat{a}_k
=
0
\end{align}
が成り立つことがわかる。
一方,$i=k$の場合(\ref{Nop2})は
\begin{align}
\langle N_i| \hat{a}_i \hat{a}^\dagger_i |N_i \rangle
=\left \{
\begin{array}{ll}
0 & \text{if} \ \ N_1=1 \\
1 & \text{if} \ \ N_1=0
\end{array}
\right.
\end{align}
であるから
\begin{align}
\hat{a}_i \hat{a}^\dagger_i = 1 -\hat{N}_i
\end{align}
と表せる。
これらから,フェルミオンの生成消滅演算子の交換関係は
\begin{align}
\{ \hat{a}_i \hat{a}^\dagger_j \}
\equiv
\hat{a}_i \hat{a}^\dagger_j
+
\hat{a}^\dagger_j \hat{a}_i
=
\delta_{ij}
\end{align}
であることがわかる。
通常の交換関係のように,順番を入れ替えたものを引くのではなく,足すことで定義されるこのような関係を,反交換関係という。
場の演算子
生成消滅演算子が反交換関係を満たすことより,場の演算子
\begin{align}
\label {fieldOP}
\hat{\psi}(\xi) = \sum_i \hat{a}_i \psi_i(\xi),
\ \
\hat{\psi}^\dagger(\xi) = \sum_i \hat{a}^\dagger_i \psi^*_i(\xi)
\end{align}
を導入した場合の交換関係も
\begin{align}
\{\hat{\psi}(\xi), \hat{\psi}^\dagger(\xi')\}
\equiv
\hat{\psi}(\xi) \hat{\psi}^\dagger(\xi')
+
\hat{\psi}^\dagger(\xi')\hat{\psi}(\xi)
=
\delta(\xi-\xi')
\end{align}
となる。
演算子一般の表現はボゾンの場合と変わらず,例えば1粒子及び2粒子演算子は
\begin{align}
\hat{F}^{(1)}
=\int \hat{\psi}^\dagger(\xi ) \hat{f}^{(1)} \hat{\psi}(\xi) d\xi
\end{align}
および
\begin{align}
\hat{F}^{(2)}
=\frac{1}{2}\int
\hat{\psi}^\dagger(\xi )\hat{\psi}^\dagger(\xi' )
\hat{f}^{(2)} \hat{\psi}(\xi')\hat{\psi}(\xi) d\xi d\xi'
\end{align}
と表される。