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    Schrödinger方程式の単純な導出

    Dr. SSS 2018/11/05 - 22:19:29 5841 量子力学
    はじめに

    Einsteinの光量子仮説により,波であると考えられてきた光が,粒子としての性質も併せ持つことが明らかにされた。 それを受けてde Broglieは,電子などの粒子として考えられてきたものが,波としての性質を併せ持つこともありうるのではないか,と考えた。そしてこの仮説が正しいことは後に実験的に確かめられた

    このような波はde Brogilie波と呼ばれ,de Broglieの関係と呼ばれる以下のような関係式を満たす。

    \begin{align} \label{de bro} \nu=\frac{E}{h}\ \ ,\ \lambda=\frac{h}{p} \end{align}

    ここで$\nu$は振動数,$\lambda$は波長で,$E$と$p$はそれぞれエネルギーと運動量。$h$はPlanck定数である。 ここでは,de Broglie波が従う運動方程式に対応する,Schrödinger方程式の導出を行う。


    keywords: Schrödinger方程式, 量子力学, 波動関数

    1次元のケース

    de Broglieの関係

    \begin{equation} \nu=\frac{E}{h}\ \ ,\ \lambda=\frac{h}{p} \end{equation}

    を満たすde Broglie波のみたすべき方程式を考える。 ここに$\nu$は振動数,$\lambda$は波長で,$E$と$p$はそれぞれエネルギーと運動量。$h$はPlanck定数である。

    de Broglie波の物理的意味は不明であるがなんらかの波動量として記述できると考えられる。 これを波動関数(wave function)と呼び,$\psi$で表そう。 波動関数の物理的解釈などは別項で解説する。 まず簡単のため1次元の場合を考える。一般に波を表す式は

    \begin{equation} \psi(x,t)=Ae^{i\left(kx-\omega t\right)} \end{equation}

    と表せる。 ここで$A$は振幅,$k$は波数,$\omega$は角振動数であるが,これらはそれぞれ波長と振動数との間に

    \begin{align} k &=\frac{2\pi}{\lambda} \\ \omega&=\frac{2\pi}{T}=2\pi\nu \end{align}

    の関係があるため,de Broglieの関係からエネルギーと運動量を用いて位相を

    \begin{equation} \label{eq:1d_wave_function} \psi(x,t) =Ae^{\frac{i}{\hbar}\left(px-Et\right)} \end{equation}

    と書き換え,粒子的な概念を取り入れることができる。 ここで$\hbar=h/2\pi$を定義した。 これを$t$と$x$で微分し,係数を処理するとそれぞれ

    \begin{align} \label{eq:energy_operator} i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\psi &=E\psi \\ -i\hbar\frac{\partial}{\partial x}\psi &=p\psi \end{align}

    を得る。 これらの演算子はそれぞれ,エネルギー演算子(energy operator)運動量演算子(momentum operator)と呼ばれ,作用する対象を限定せず一般化される。

    また,質量$m$の自由粒子の古典的なHamiltonianは

    \begin{equation} H=\frac{p^2}{2m} \end{equation}

    であるから,Hamiltonian演算子として

    \begin{equation} \hat{H} =\frac{1}{2m}\left(-i\hbar\frac{\partial}{\partial x}\right)^2 =-\frac{\hbar^2}{2m}\ \frac{\partial^2}{\partial x^2} \end{equation}

    を定義すれば

    \begin{equation} \label{eq:time-dependent_schrodinger_equation} i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\psi=\hat{H}\psi \end{equation}

    が成り立つ。 これが(1次元自由粒子の)時間に依存するSchrödinger方程式(time-dependent Schrödinger equation)である。



    3次元のケース

    これを3次元に拡張するのは容易である。 運動量はベクトル$\bm{p}$で与えられるため運動量演算子が

    \begin{equation} \hat{H} =-\frac{\hbar^2}{2m}\left(\ \frac{\partial^2}{\partial x^2}+\frac{\partial^2}{\partial y^2}+\frac{\partial^2}{\partial z^2}\right) =-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 \end{equation}

    となる。 また粒子がポテンシャル$V(\bm{x},t)$の中にある場合にはポテンシャル項が付け加わり

    \begin{equation} \label{eq:hamiltonian_operator} \hat{H}=-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2+V(\bm{x},t) \end{equation}

    と与えられる。 したがって,3次元での一般のSchrödinger方程式として

    \begin{equation} \label{eq:3d_time-dependent_schrodinger_equation} i\hbar\frac{\pd}{\pd t}\psi(\bm{x},t) =\left[-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 +V(\bm{x},t)\right]\psi(\bm{x},t) \end{equation}

    が得られる。

    定常なケース

    これまで,波動関数を単純で具体的な形[平面波](\ref{eq:1d_wave_function})に仮定し,それが満たすべき方程式の形を導いてきた。 しかし,解の形はポテンシャル$V(\bm{x},t)$の具体的な形や,境界条件などによって大きく変わってくる。 ここでは,より一般的ではあるが,ポテンシャルが時間に依存しないという条件の下でSchrödinger方程式(\ref{eq:3d_time-dependent_schrodinger_equation})を満たす解の形を調べてみよう。

    ポテンシャルが時間に依存しない場合,Hamiltonian演算子(\ref{eq:hamiltonian_operator})は,時間を陽に含まない。 この場合,解を時間$t$と位置$\bm{x}$それぞれに依存する部分の積$\psi(\bm{x},t)=f(t)g(\bm{x})$の形における(変数分離)。 実際にこの形を仮定し,(\ref{eq:3d_time-dependent_schrodinger_equation})に入れると

    \begin{equation} i\hbar\frac{df}{dt}g = f\left[-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 +V(\bm{x})\right]g \end{equation}

    であり,整理すると

    \begin{equation} \frac{i\hbar}{f}\frac{df}{dt} = \frac{1}{g} \left[-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 +V(\bm{x})\right]g \end{equation}

    となる($f$は時間のみに依存するから,$t$による全微分と偏微分は等しい)。 左辺は時間$t$のみに,右辺は位置$\bm{x}$のみに依存しており,これらが変数の値によらず等しいためには,ともに同じ一つの定数に等しくなくてはならない。 その定数を$E$と置くと,左辺からは

    \begin{equation} f(t)=Ce^{-iEt/\hbar} \end{equation}

    という解が得られ,右辺は

    \begin{equation} \label{eq:time-independent_schrodinger_equation} \left[-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2+V(\bm{x})\right]g =Eg \end{equation}

    という式に整理できる。 したがって,この場合の一般的な解の形は,$\phi=Cg$とまとめると

    \begin{equation} \label{eq:schrodinger_steady_solution} \psi(\bm{x},t)=\phi(\bm{x})e^{-iEt/\hbar} \end{equation}

    と表すことができる。 最初に発見的に導いた平面波解(\ref{eq:1d_wave_function})は,1次元の場合で,位置に依存する部分が$\propto e^{ipx/\hbar}$となる一例である。

    解(\ref{eq:schrodinger_steady_solution})にエネルギー演算子(\ref{eq:energy_operator})を作用すると

    \begin{equation} i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\psi =E\psi \end{equation}

    が成り立つことからもわかるよう,定数$E$はエネルギーである。 このように,$E$の値が一定である場合を,定常状態(steady state)という。

    解の時間に独立な部分は(\ref{eq:time-independent_schrodinger_equation})によって決定される。 改めて$\phi(\bm{x})$についての式として書き下すと

    \begin{equation} \left[-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2+V(\bm{x})\right]\phi(\bm{x}) =E\phi(\bm{x}) \end{equation}

    である。 これを時間に依存しないSchrödinger方程式(time independent Schrödinger equation)と呼ぶ。


    参考文献