はじめに
ここでは,量子力学の統計的解釈と,それに基づいて確率の流れや物理量の期待値について説明する。
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Schrödinger方程式,
量子力学,
確率論
内容
統計的解釈
Schrödinger方程式の解となる$\psi$が具体的に何を表現しているのかということについて当初は議論があったが
\begin{align}
\rho(\bm{x},t) \equiv
|\psi(\bm{x},t)|^2=\psi^*(\bm{x},t) \psi(\bm{x},t)
\end{align}
を確率密度と解釈することで,計算上非常にうまくいくということがわかった。
すなわち,$\psi(\bm{x},t)$を1つの粒子の状態を表す波動関数とすると,$\rho(\bm{x},t)d^3x$は時刻$t$に測定したとき,粒子が$\bm{x}$近傍の微小体積$d^3x$内に見いだされる確率を与える。
この見方は,Bornの統計的解釈(Born's statistical interpretation)と呼ばる。
粒子の存在しうる空間範囲全体で積分した結果,その存在確率は$1$に等しくなければならないから,波動関数$\psi$は
\begin{align}
\label{eq:prob_norm}
\int |\psi(\bm{x},t)|^2 d^3x=1
\end{align}
を満たすよう規格化される。
ただし,積分が収束せず,無限大に発散してしまうため,上のような規格化を行えない場合もある。
そのような場合,確率密度$|\psi|^2$は,ある点に見出される絶対的な確率を与えるのではなく,異なる2点に見出される確率密度$|\psi|^2$の比が,相対的な確率を与えるものと理解される。
確率の保存
確率の規格化条件(\ref{eq:prob_norm})の積分を,ある有限な体積に渡る積分に置き換えた
$$
\int_V \rho(\bm{x},t) d^3x
$$
は,粒子をその体積中に見出す確率を与える。
この式を時間で微分すると
\begin{align}
\frac{d}{dt}\int_V \rho d^3x
=
\int_V \left(\frac{\pd \psi^*}{\pd t}\psi
+\psi^*\frac{\pd \psi}{\pd t}\right)d^3x
\end{align}
となるが,この右辺は,Schrödinger方程式
\begin{align}
\frac{\pd \psi}{\pd t}
=
-\left(
\frac{\hbar}{2mi}\nabla^2 - \frac{1}{i\hbar}V
\right)\psi
\end{align}
とその複素共役
\begin{align}
\frac{\pd \psi^*}{\pd t}
=
\left(
\frac{\hbar}{2mi}\nabla^2 - \frac{1}{i\hbar}V
\right)\psi^*
\end{align}
を利用すると
\begin{align}
\frac{\hbar}{2mi}
\int_V \left(\psi \nabla^2 \psi^*
-\psi^*\nabla^2 \psi\right)d^3x
=&
\frac{\hbar}{2mi}
\int_V \nabla \cdot \left(\psi \nabla \psi^*
-\psi^*\nabla \psi\right)d^3x \notag \\
=& -\int_V \nabla \cdot \bm{j} d^3x
\end{align}
と変形できる。
ここで,確率流密度を
\begin{align}
\bm{j}\equiv
\frac{\hbar}{2mi}
\left(\psi^*\nabla \psi
-\psi \nabla \psi^*\right)
\end{align}
と定義した。
これより,確率密度が連続の式
\begin{align}
\frac{d}{dt}\int_V \rho d^3x
= -\int_V \nabla \cdot \bm{j} d^3x
\end{align}
を満たすことがわかる。
体積$V$は任意であるから,積分を外して
\begin{align}
\frac{\pd \rho}{\pd t}
+ \nabla \cdot \bm{j}=0
\end{align}
とすることもできる。
物理量の期待値
$\rho(\bm{x},t)$が位置の確率密度を与えるということから,位置の期待値が
\begin{align}
\langle \bm{x}\rangle
=&
\int \bm{x} \rho(\bm{x})d^3x \notag \\
=&
\label {eq;xave}
\int \bm{x}\psi^*(\bm{x})\psi(\bm{x}) d^3x
\end{align}
と求められることがわかる。
このとき
\begin{align}
\hat{\bm{x}}\psi(\bm{x}) =\bm{x}\psi(\bm{x})
\end{align}
であることから,(\ref{eq;xave})は
\begin{align}
\langle \bm{x}\rangle
=
\int \psi^*(\bm{x})
\hat{\bm{x}}\psi(\bm{x}) d^3x
\end{align}
と表現できる。
位置演算子に限らず,他の物理量$a$の期待値も,対応する演算子$\hat{A}$を用いて
\begin{align}
\langle a\rangle
=
\int \psi^*(\bm{x},t)
\hat{A}\psi(\bm{x},t) d^3x
\end{align}
によって求めることができる。