スピン角運動量

Dr. SSS 2020/05/23 - 13:41:28 量子力学
はじめに

素粒子は,軌道角運動量とは別に,位置や運動量では指定できない内在的な角運動量を持っている。 この性質は,古典的な枠組みで解釈することはできない量子論に特有の性質であり,粒子の持つこの内在的な角運動量はスピンと呼ばれる。 量子力学において,粒子の状態は波動関数を用いて記述されるが,スピンを持つ粒子の状態を指定する場合,スピンの自由度も加わるため,波動関数は,空間座標に加えスピンの状態を表す変数にも依存することになる。


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内容

スピン演算子の基本的性質

スピン角運動量も,軌道角運動量同様に演算子によって表され,スピンの各成分$\hat{s}_i, \ (i=1,2,3)$の交換関係も,軌道角運動量の各成分と同様の形

\begin{align} \label {si-sj} [\hat{s}_i, \hat{s}_j]=i\hbar \epsilon_{ijk} s_k \end{align}

となる。 そのため,交換関係に基づいて導かれる他の軌道角運動量の性質(『軌道角運動量』参照)も,同様に満たされる。 例えば,全軌道角運動量$\hat{L}^2$に対応し$\hat{s}^2$を定義し,方位量子数$l$に対応する量を$s$とすれば,$\hat{s}^2$の固有値は

\begin{align} \hat{s}^2 \psi_\sigma(\bm{x}) = \hbar^2 s(s+1)\psi_\sigma(\bm{x}) \end{align}

となる。 ここで,添え字$\sigma$で波動関数のスピン変数への依存を表した。

軌道角運動量の場合,$s$に対応する量は整数である必要があると議論したが,位置によって指定される量ではないスピンの場合,半整数の値を取ることも可能になる。 実際,自然界には$s$の値として(ゼロを含め)整数を取るものと,半整数を取るものの2種類が存在することがわかっている。 前者の種類の粒子はボゾン,後者の種類の粒子はフェルミオンと呼ばれる。




$s=1/2$のケース

$s=1/2$のケースを考える。 この場合,軌道角運動量の場合の$m \hbar$に対応する$\hat{s}_z$の固有値は$\pm \hbar/2$となり,$\hat{s}_z$は,行列

\begin{align} \label {sigmaz} \hat{\sigma}_z=\left( \begin{array}{cc} 1 & 0 \\ 0 & -1 \end{array} \right) \end{align}

を用いて

\begin{align} \label {eq:sz} \hat{s}_z=\frac{\hbar}{2} \sigma_z \end{align}

と表現することができる。 これに対応する波動関数は,2成分のベクトル

\begin{align} \left( \begin{array}{c} \psi_+(\bm{x}) \\ \psi_-(\bm{x}) \end{array} \right) = \psi_+(\bm{x}) \left( \begin{array}{c} 1 \\ 0 \end{array} \right) + \psi_-(\bm{x}) \left( \begin{array}{c} 0 \\ 1 \end{array} \right) \end{align}

となる。

さらに

\begin{align} \hat{s}_+ \left( \begin{array}{c} 0 \\ 1 \end{array} \right) = \left( \begin{array}{c} 1 \\ 0 \end{array} \right) \end{align}

および

\begin{align} \hat{s}_- \left( \begin{array}{c} 1 \\ 0 \end{array} \right) = \left( \begin{array}{c} 0 \\ 1 \end{array} \right) \end{align}

(それ以外は$0$)を満たすスピンの場合の昇降演算子として

\begin{align} \hat{s}_+ = \hat{s}_x + i\hat{s}_y =\hbar \left( \begin{array}{cc} 0 & 1 \\ 0 & 0 \end{array} \right) \end{align}

および

\begin{align} \hat{s}_- = \hat{s}_x - i\hat{s}_y =\hbar \left( \begin{array}{cc} 0 & 0 \\ 1 & 0 \end{array} \right) \end{align}

を定義することができる。 また,これよりスピン演算子の$x$成分,$y$成分の具体的な表現として

\begin{align} \hat{s}_x = \frac{\hbar}{2} \left( \begin{array}{cc} 0 & 1 \\ 1 & 0 \end{array} \right) \end{align}

および

\begin{align} \hat{s}_y = \frac{\hbar}{2} \left( \begin{array}{cc} 0 & -i \\ i & 0 \end{array} \right) \end{align}

が得られる。 $z$成分(\ref{eq:sz})と合わせて,これらが交換関係(\ref{si-sj})を満たすことは,直接代入することで確かめられる。 スピン演算子の各成分に含まれる行列

\begin{align} \hat{\sigma}_x = \left( \begin{array}{cc} 0 & 1 \\ 1 & 0 \end{array} \right), \ \hat{\sigma}_y = \left( \begin{array}{cc} 0 & -i \\ i & 0 \end{array} \right), \ \hat{\sigma}_z=\left( \begin{array}{cc} 1 & 0 \\ 0 & -1 \end{array} \right) \end{align}

Pauli行列と呼ばれ,これらをまとめ,スピン演算子を

\begin{align} \hat{\bm{s}}=\frac{\hbar}{2}\hat{\bm{\sigma}} \end{align}

と表すことができる。



参考文献


自然科学に関する質問やノート作りは『AfterSchool』で。