はじめに
ここでは,仕事とエネルギーという物理における2つの基本概念について解説する。
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古典力学,
エネルギー保存則,
仕事,
線積分
内容
仕事とエネルギー保存則
仕事と保存力
力$\bm{F}$の下,点$A$から$B$に移動したとき,経路に沿って定義される積分
\begin{align}
\label {eq:work}
W_{AB}=\int_A^B \bm{F}\cdot d \bm{x}
\end{align}
を力$\bm{F}$がした仕事(work)という。
この定義からわかるように,変位$d\bm{x}$に直交する力は仕事をしない。
(\ref{eq:work})の値は一般に経路に依存する(『線積分』を参照)。
しかし,力が,あるスカラー関数$\phi$を用いて
\begin{align}
\label {F=-dphi}
\bm{F}= -\nabla \phi
= -\left( \frac{\pd \phi}{\pd x_1}\bm{e}_1
+ \frac{\pd \phi}{\pd x_2}\bm{e}_2
+ \frac{\pd \phi}{\pd x_3}\bm{e}_3 \right)
\end{align}
の形にかけるとき,仕事は
\begin{align}
W_{AB}
=& -\int_A^B \nabla \phi \cdot d\bm{x} \notag \\
=& -\int_A^B \left( \frac{\pd \phi}{\pd x_1}dx_1
+ \frac{\pd \phi}{\pd x_2} dx_2
+ \frac{\pd \phi}{\pd x_3} dx_3 \right) \notag \\
=& -\int_A^B d\phi \notag \\
\label {eq:pot}
=& \phi(A)-\phi(B)
\end{align}
となり,始点と終点の値のみで決まる。
このように,仕事が経路に依存せず,始点と終点における値の差のみで決まるとき,$\bm{F}$は保存力(conservative force)と呼ばれ,対応するスカラー関数$\phi$をポテンシャルエネルギー(potential energy)という。
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エネルギー保存則
力が保存力の場合,運動方程式は
\begin{align}
\label {eq:motion}
m\frac{d^2 \bm{x}}{dt^2}=-\nabla \phi
\end{align}
と書ける。
右辺を運動の軌道に沿って積分したものは,ポテンシャルエネルギーの差になるのであった。
一方,左辺も同様に積分した結果は
\begin{align}
\int_A^B m\frac{d^2 \bm{x}}{dt^2}\cdot d\bm{x}
=& \int_A^B m\frac{d^2 \bm{x}}{dt^2}\cdot \frac{d\bm{x}}{dt}dt \notag \\
=&\frac{m}{2} \int_A^B \frac{d}{dt} \left( \frac{d\bm{x}}{dt} \cdot \frac{d\bm{x}}{dt} \right)dt \notag \\
\label {eq:kinetic}
=& \frac{1}{2}mv_B^2 - \frac{1}{2}mv_A^2
\end{align}
となる。
ここに現れる
\begin{align}
\frac{1}{2}mv^2 = \frac{m}{2} \left|\frac{d\bm{x}}{dt} \right|^2
\end{align}
を運動エネルギー(kinetic energy)という。
(\ref{eq:motion})の左辺と右辺を積分した結果は,それぞれ(\ref{eq:kinetic})と(\ref{eq:pot})であるから
\begin{align}
\frac{1}{2}mv_B^2 - \frac{1}{2}mv_A^2
=
\phi(A)-\phi(B)
\end{align}
が成り立つ。
これを並び替えると
\begin{align}
\frac{1}{2}mv_B^2 +\phi(B)
=
\frac{1}{2}mv_A^2 +\phi(A)
\end{align}
が得られる。
これは,運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和である全エネルギー
\begin{align}
E\equiv \frac{1}{2}mv^2 +\phi
\end{align}
が軌道上の2点間で不変であることを示している。
2点間の選択は任意であるため,任意の時刻で
\begin{align}
\label {consv}
\frac{d}{dt}E=\frac{d}{dt}\left( \frac{1}{2}mv^2 +\phi \right)=0 \end{align}
が成り立つ。
このように,力が保存的であるとき,質点の全エネルギーが一定であることをエネルギー保存則(law of the conservation of energy)という。
(\ref{consv})を
\begin{align}
\frac{d}{dt}\left(\frac{1}{2}mv^2 \right)
= - \frac{d}{dt} \phi
\end{align}
と書き直すと,他方の形態のエネルギーの増加(減少)分が,もう一方の形態のエネルギーの減少(増加)分となることがわかりやすくなる。
具体例
保存力の典型的な例の1つが,それぞれ位置$\bm{x}_1$,$\bm{x}_2$にある2つの質点間に働く万有引力
\begin{align}
\bm{F}=G \frac{m_1 m_2 }{r^3}\bm{r}
\end{align}
である。
ここで,$m_1$,$m_2$はそれぞれの質量で,$G$は万有引力定数,$\bm{r}=\bm{x}_1-\bm{x}_2$および$r=|\bm{r}|$である。
\begin{align}
\frac{\bm{r} }{r^3}= -\nabla \frac{1}{r}
\end{align}
であるから,万有引力に対して,ポテンシャル
\begin{align}
\phi = -G \frac{m_1 m_2 }{r}
\end{align}
が定義できる。
これに対し,典型的な非保存力の一つは摩擦力だ。
比例定数を$\gamma$とすると,摩擦力は一般に速度に比例する形
\begin{align}
\bm{F}=-\gamma \bm{v}
\end{align}
における。
よってこの力がする仕事は
\begin{align}
\int \bm{F}\cdot d\bm{x}
= \int \bm{F}\cdot\bm{v}dt
= -\gamma\int v^2 dt
\end{align}
となる。
これを,(\ref{eq:motion})の左辺を積分した結果(運動エネルギー)と結び,時間で微分すると
\begin{align}
\frac{d}{dt} \left( \frac{1}{2}mv^2 \right)=-\gamma v^2
\end{align}
となり,この場合質点の運動エネルギーの変化分は,ポテンシャルエネルギーに形態を変えるのではなく,摩擦によって散逸していくことが示される。
保存力の判定
保存力のなす仕事が始点と終点の差のみで決まるということは,保存力の場合
\begin{align}
\oint_C \bm{F}\cdot d\bm{x}=0
\end{align}
が成り立つということである。
これにStokesの定理を適用すると
\begin{align}
\int_{S} (\nabla \times \bm{F}) \cdot d\bm{S}=0
\end{align}
となる。
ここで,$S$は曲線$C$が囲む面積で,$d\bm{S}$は向きを含めたその面積要素である。
$C$の選択は任意であるため,この場合
\begin{align}
\nabla \times \bm{F} =0
\end{align}
が成り立つことがわかる。
つまり,回転がゼロの力は保存力であり,その逆も成り立つ。
保存力の回転がゼロであることは,任意のスカラー関数$\phi$について成り立つベクトル公式
\begin{align}
\nabla\times \nabla \phi=0
\end{align}
からも確かめられる。