仕事とエネルギー

Dr. SSS 2020/06/19 - 13:54:09 古典力学
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はじめに

ここでは,仕事とエネルギーという物理における2つの基本概念について解説する。


keywords: エネルギー保存則, 古典力学, 仕事, 線積分

内容

仕事とエネルギー保存則

仕事と保存力

力$\bm{F}$の下,点$A$から$B$に移動したとき,経路に沿って定義される積分

\begin{align} \label {eq:work} W_{AB}=\int_A^B \bm{F}\cdot d \bm{x} \end{align}

を力$\bm{F}$がした仕事(work)という。 この定義からわかるように,変位$d\bm{x}$に直交する力は仕事をしない。

(\ref{eq:work})の値は一般に経路に依存する(『線積分』を参照)。 しかし,力が,あるスカラー関数$\phi$を用いて

\begin{align} \label {F=-dphi} \bm{F}= -\nabla \phi = -\left( \frac{\pd \phi}{\pd x_1}\bm{e}_1 + \frac{\pd \phi}{\pd x_2}\bm{e}_2 + \frac{\pd \phi}{\pd x_3}\bm{e}_3 \right) \end{align}

の形にかけるとき,仕事は

\begin{align} W_{AB} =& -\int_A^B \nabla \phi \cdot d\bm{x} \notag \\ =& -\int_A^B \left( \frac{\pd \phi}{\pd x_1}dx_1 + \frac{\pd \phi}{\pd x_2} dx_2 + \frac{\pd \phi}{\pd x_3} dx_3 \right) \notag \\  =& -\int_A^B d\phi \notag \\ \label {eq:pot} =& \phi(A)-\phi(B) \end{align}

となり,始点と終点の値のみで決まる((\ref{F=-dphi})の右辺の負号は便宜的なもので,本質的ではない)。

このように,仕事が経路に依存せず,始点と終点における値の差のみで決まるとき,$\bm{F}$は保存力(conservative force)と呼ばれ,対応するスカラー関数$\phi$をポテンシャルエネルギー(potential energy)という。


エネルギー保存則

力が保存力の場合,運動方程式は

\begin{align} \label {eq:motion} m\frac{d^2 \bm{x}}{dt^2}=-\nabla \phi \end{align}

と書ける。

右辺を運動の軌道に沿って積分したものは,ポテンシャルエネルギーの差になるのであった。 一方,左辺も同様に積分した結果は

\begin{align} \int_A^B m\frac{d^2 \bm{x}}{dt^2}\cdot d\bm{x} =& \int_A^B m\frac{d^2 \bm{x}}{dt^2}\cdot \frac{d\bm{x}}{dt}dt \notag \\ =&\frac{m}{2} \int_A^B \frac{d}{dt} \left( \frac{d\bm{x}}{dt} \cdot \frac{d\bm{x}}{dt} \right)dt \notag \\ \label {eq:kinetic} =& \frac{1}{2}mv_B^2 - \frac{1}{2}mv_A^2 \end{align}

となる。 ここに現れる

\begin{align} \frac{1}{2}mv^2 = \frac{m}{2} \left|\frac{d\bm{x}}{dt} \right|^2 \end{align}

運動エネルギー(kinetic energy)という。

(\ref{eq:motion})の左辺と右辺を積分した結果は,それぞれ(\ref{eq:kinetic})と(\ref{eq:pot})であるから

\begin{align} \frac{1}{2}mv_B^2 - \frac{1}{2}mv_A^2 = \phi(A)-\phi(B) \end{align}

が成り立つ。 これを並び替えると

\begin{align} \frac{1}{2}mv_B^2 +\phi(B) = \frac{1}{2}mv_A^2 +\phi(A) \end{align}

が得られる。 これは,運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和である全エネルギー

\begin{align} E\equiv \frac{1}{2}mv^2 +\phi \end{align}

が軌道上の2点間で不変であることを示している。 2点間の選択は任意であるため,任意の時刻で

\begin{align} \label {consv} \frac{d}{dt}E=\frac{d}{dt}\left( \frac{1}{2}mv^2 +\phi \right)=0 \end{align}

が成り立つ。 このように,力が保存的であるとき,質点の全エネルギーが一定であることをエネルギー保存則(law of the conservation of energy)という。

(\ref{consv})を

\begin{align} \frac{d}{dt}\left(\frac{1}{2}mv^2 \right) = - \frac{d}{dt} \phi \end{align}

と書き直すと,他方の形態のエネルギーの増加(減少)分が,もう一方の形態のエネルギーの減少(増加)分となることがわかりやすくなる。




具体例

保存力の典型的な例の1つが,それぞれ位置$\bm{x}_1$,$\bm{x}_2$にある2つの質点間に働く万有引力

\begin{align} \bm{F}=G \frac{m_1 m_2 }{r^3}\bm{r} \end{align}

である。 ここで,$m_1$,$m_2$はそれぞれの質量で,$G$は万有引力定数,$\bm{r}=\bm{x}_1-\bm{x}_2$および$r=|\bm{r}|$である。

\begin{align} \frac{\bm{r} }{r^3}= -\nabla \frac{1}{r} \end{align}

であるから,万有引力に対して,ポテンシャル

\begin{align} \phi = -G \frac{m_1 m_2 }{r} \end{align}

が定義できる。

これに対し,典型的な非保存力の一つは摩擦力だ。 比例定数を$\gamma$とすると,摩擦力は一般に速度に比例する形

\begin{align} \bm{F}=-\gamma \bm{v} \end{align}

における。 よってこの力がする仕事は

\begin{align} \int \bm{F}\cdot d\bm{x} = \int \bm{F}\cdot\bm{v}dt = -\gamma\int v^2 dt \end{align}

となる。 これを,(\ref{eq:motion})の左辺を積分した結果(運動エネルギー)と結び,時間で微分すると

\begin{align} \frac{d}{dt} \left( \frac{1}{2}mv^2 \right)=-\gamma v^2 \end{align}

となり,この場合質点の運動エネルギーの変化分は,ポテンシャルエネルギーに形態を変えるのではなく,摩擦によって散逸していくことが示される。


保存力の判定

保存力のなす仕事が始点と終点の差のみで決まるということは,保存力の場合

\begin{align} \oint_C \bm{F}\cdot d\bm{x}=0 \end{align}

が成り立つということである。 これにStokesの定理を適用すると

\begin{align} \int_{S} (\nabla \times \bm{F}) \cdot d\bm{S}=0 \end{align}

となる。 ここで,$S$は曲線$C$が囲む面積で,$d\bm{S}$は向きを含めたその面積要素である。 $C$の選択は任意であるため,この場合

\begin{align} \nabla \times \bm{F} =0 \end{align}

が成り立つことがわかる。 つまり,回転がゼロの力は保存力であり,その逆も成り立つ。 保存力の回転がゼロであることは,任意のスカラー関数$\phi$について成り立つベクトル公式

\begin{align} \nabla\times \nabla \phi=0 \end{align}

からも確かめられる。


参考文献


自然科学に関する質問やノート作りは『AfterSchool』で。