Introduction
これまで定常状態の波動関数で行列要素を定義して議論してきたが,他の関数系を用いて定義することもできる。 ある演算子の固有関数系を用いるならば,対応する行列は対角行列になる。 あるいは反対に,任意の関数系を用いて定義されたHamiltonian行列から,それをうまく変換して対角化できたならば,Hamiltonianの固有関数も得られる。 つまり,与えられた行列を対角化する過程は,Schrödinger方程式を解くことと等価である。 そこで,行列の変換に関する手続きを議論する。ユニタリ行列とユニタリ変換
演算子$\hat{A}$の固有関数を$\psi_n$,別の演算子$\hat{B}$の固有関数を$\phi_n$とする。 これらはそれぞれ完全系を成すから,任意の波動関数はどちらを基底として用いても展開でき,$\phi_n$もまた$\psi_n$を用いて
と展開できる。 これは,演算子$\hat{U}$による演算として
と書ける。 そして,この展開係数は,$\psi_m^*$をかけ
のようにして取り出せる。 ここに(\ref{eq:unitary_operator_transform})を入れると
となり,確かに行列要素の定義に従っていることが確認できる。
反対に,$\psi_m$を$\phi_n$で展開することもでき,同じように考えることで,そのときの展開係数が
であることがわかる。 これは,(\ref{eq:unitari_Umn})の$n$と$m$を入れ替えて複素共役を取ったものに等しいから,それぞれ(\ref{eq:unitari_Umn})と(\ref{eq:unitari_conjugate_Umn})を成分とする行列は,互いにHermite共役である。 よって,(\ref{eq:unitari_Umn})からなる行列を$U$と記すと,(\ref{eq:unitari_conjugate_Umn})を成分とする行列は$U^\dagger$と表せる。 また,(\ref{eq:unitary_operator_transform})に対応する演算子としての表示は
である。
ところで,今考えている変換は単に基底の選択の変更に過ぎないから,この変換によって内積は値を変えてはいけない[この要求を満たす変換を,ユニタリ変換(unitary transformation)と呼ぶ]。 したがって
が満たされなくてはならない[共役演算子の定義を思い出そう]。 これは
あるいは
であることを示している。 この性質を満たす演算子を,ユニタリ演算子(unitary operator)と呼ぶ。 またこれに対応し,$(U^\dagger)_{mn}=U_{nm}^*$を満たす行列をユニタリ行列(unitary matrix)という。
引き続き,$\{\psi_n\}$を演算子$\hat{A}$の固有関数系とし,$\{\phi_n\}$を別の基底とする。 $\hat{A}$の$\{\phi_n\}$での表示を考えると,上で導入したユニタリ演算子を通した関係より
となる。 したがって,基底として$\{\phi_n\}$を選んだ場合の行列表現$A'$は,固有関数を用いた場合の表現$A$と
の関係で結ばれる。
References
――(1983). 量子力学―非相対論的理論 1 (ランダウ=リフシッツ理論物理学教程). 佐々木健 & 好村滋洋 訳. 東京図書.
――(1970). 量子力学. 井上健 訳. 吉岡書店.